理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

【映画評】実写版鋼の錬金術師 アルの表現に気を取られて雑さが目立った

しばらくネタバレなしです。

 

 

 

 

 原作ファンが涙を流すほど酷いという口コミさえ見かけたこの作品。そこまで言わしめた作品が、いかほどのものなのか気になったので観てきました。実写版鋼の錬金術師

 アルフォンスの鎧の表現に気を取られて粗雑な部分が目立った、というのが僕の抱いた感想です。アルフォンスのCG表現に目途がついたので実写化に踏み切ったという趣旨の発言を、監督さんが何度かしているのを見ました。仰る通り、動く鎧の表現は見事としか言いようがなく、場面場面に違和感なく溶け込み、そこにあるかのように他の物体と触れ合っていました。CG技術の発展は凄まじいなと思いました。

 でも、アルフォンスだけが上手くいっても、映画として素晴らしいものになるわけではありません。それ以外の部分が、どうしても粗末に見えてしまいました。とても残念です。

 興行成績はずば抜けたものにはならないでしょう。結果が出ないと多くの関係者は損をするはずです。原作者の荒川先生はこの実写化に満足しておられるのは救いです。

 僕は原作ファンとして悔しい。あんなに素晴らしい漫画作品の良さが、いまいち引き出せていないと思ったからです。あの素晴らしさをもっと多くの人に伝えられるきっかけとなるべき実写映画が、「あんまりおもしろくなかった」という評価に沈んでしまうのは、あまりにも悔しいのです。

 失敗してもいいから数を撃て。それは企業の戦略としてとても正しいものではあるのですが、やはりこの映画を観ると「安易な漫画実写化はNO」という姿勢を僕はとらざるをえないなと思いました。

 

 

 

 

 

ここからネタバレを含みます。

 

 

 

西洋が舞台の映画を日本人俳優だけで実写化するな

 まずは定番どころから。やっぱりどう考えても無理があるのです。鋼の錬金術師はヨーロッパをイメージした舞台で繰り広げられる作品です。主人公をはじめとした多くの人物が、西洋人をモデルに描かれています。それを日本人の俳優さんだけで実写化するのは厳しい。テルマエ・ロマエ阿部寛さんだからできたのです。ハリウッドでさえホワイトウォッシュでずっと揺れている。銀魂は日本の話だからうまくいったのです。

 何が問題かって、主人公のエドに一番違和感があることです。山田涼介さんを批判しているのではありません。彼の演技は悪くないと思いました。日本人の顔に、後ろ結びの金髪が自然にマッチするわけがないのです。コスプレ感が一番際立ってしまっていました。

 もう1つ、冒頭のエドとアルの幼少期の姿もかなり厳しかった。その辺にいる日本人の小学生が、金髪のカツラを被ってお遊戯しているようにしか見えない。僕はこれで出鼻を完全にくじかれました。

 ラスト、エンヴィー、グラトニーの特殊メイクはクオリティが高かったと思います。ヒューズ中佐もなかなかキマっていました。ロス少尉は個人的にはハマリ役だったと思います。主人公の脇を固めるキャラクターは比較的違和感が少な目だったので、余計に主人公が悪目立ちをしてしまっていました。当然エドが写っているシーンが一番長いので、これは厳しかった。

 主人公にネームバリューのない俳優さんは使えない。それはよくわかります。だからこそこの実写化は慎重に検討してほしかった。いま、旬の俳優さんでエドにハマる人がいるのかと。何度もいいますが山田涼介さん自身は悪くなくて、キャスティングにそもそも無理があったと言いたい。

2時間映画でやれるストーリーではない

 僕がハガレンという漫画が大好きな理由の1つに、1巻の頭から最終巻の終りまでがすべて一本の線で結ばれていることがあります。どのエピソードも最後の結末への布石であり、無駄な出来事は1つも起きません。連載を伸ばすために脇道にそれません。それでいて27巻というボリュームになっているので、1巻1巻が非常に濃密になっている。

 だから、2時間という尺で原作に沿った映画脚本を作ろうとすると、どうしても無理が出ます。すべてのエピソードが繋がっているので安易なところで切れませんし、黒幕を明かそうとすると最後の方の話まで展開せざるを得なくなる。「◯◯編」のように話が切れている漫画でないと、実写化には向いていないと思います。

 それでいて今回鼻についたのが、原作をなるべく再現しようとしているところ。あのシーンもこのシーンもいれたい!という熱い想いが痛いほど伝わってきて、余計に切なくなります。気持ちはとてもわかるのです。「勘の良いガキ」のくだりとか、原作を読んでいなくても知っている人がとても多いシーンです。今の時代、入れたら絶対に話題になると思ってしまったのでしょう。切ないです。

 果たして、映画として面白い脚本になっていたでしょうか。2時間で起承転結をきちんと作り、観客を飽きさせず興奮させるストーリーになっていたでしょうか。原作でいうところの2つ3つぐらいの山を1つの映画にまとめているのです。原作の起承転結をそのまま再現していて映画としての起伏がうまく作れていません。

 銀魂の実写映画をこの前見に行ってきましたが、あの作品の場合エピソードがぶつ切りなので、ハチャメチャながらも最後はきちんと締めることができていました。ハガレンの実写化を企画したとき、そもそも映画として面白いものになるかどうかという観点で検討は重ねられたでしょうか。アルフォンスがいけそうだから気持ちが急いてしまった。そう見えてしまいました。とにかく映像化したいという気持ちだけでヒットする映画は作れないと思います。

キャラを魅力的に描くことができていない

 ハガレンが大好きな理由の1つ目はストーリーにあると言いました。2つ目はキャラの描き方にあります。原作を念頭に置かずとも、映画の中のキャラたちは魅力的な人物として描かれていたでしょうか?脚本と相まって、ここが上手くいっていなかったので引き込まれる映画作品になっていないと思いました。

 まずはひとりひとりのキャラの立体感。

 例えば、この映画で描かれるウィンリィは、ただただ元気で明るく可愛い女の子で、ピンチのときには主人公に守ってもらうだけのか弱いヒロインに見えてしまいます。それは1つの側面ではあるのですが、彼女は機械鎧オートメイル)の技術にかけてはゆずれない誇りを持っており、エドの立派なサポーターとして対等かそれ以上の立場からエドを見守る強い女性です。機械オタクである設定を出せていないことは時間の都合上しょうがなかったかもしれませんが、そういうキャラの立体感が失われ、一面性ののっぺりとした個性で塗られてしまっていたのがとても残念でした。

 マスタング大佐も、この映画だけ見ると単なる冷静で優秀な切れ者にしか見えない。お茶目な一面を持ちながらも、上に昇り詰めるという強い覚悟、そしてそのために非情な人間になろうと必死に努力し、ときに弱さを見せてしまう自分を自覚している。そういう立体感があるからこそ、ロス少尉の変装を見破るエピソードが活きますし、彼がヒューズ中佐のためにブチ切れるのにはぐっときます。

 もう1つキャラの描き方で気になったのは、キャラ同士の関係性。

 エドとアルとウィンリィは幼馴染で、いつも一緒の3人トリオ。そんな描き方がされているように感じましたが、僕が原作ですごいなと思うのが、エドとアル、エドウィンリィ、アルとウィンリィにはそれぞれのドラマがあるところ。決して一緒くたにはできない感情の動きがあり、個別のペアについて丁寧に描き出しているところです。

 別の例で言えばホークアイ中尉とマスタング大佐。ホークアイはツンツンとしていて周りにあまり気を許さないクールなキャラ。マスタング大佐に対してはいつも厳しめにあたる人。だけどマスタング大佐のことを誰よりも理解し、大切に思っているので、マスタング大佐のピンチにみせる表情は魅力的になる。しかしこの映画のホークアイはただのお付きの人にしか見えない。ほんの少しセリフや立ち振る舞いを工夫するだけで、良くなったと思うのに。

 そういう、この二人だからこういう表情や行動になるよね、というところがどうも雑に扱われているようで悲しかったです。

 俳優さんたちは、そのシーンにおける最高の演技をしていたと思います。ですが、このキャラはこの場面では実はこういうことを考えていて、それがちょっとだけ表情に出てしまう、といった立体感のある指示は入っていなかったのではないかと思います。神は細部に宿る。こういう細かいところが気になってしまう作品でした。

終わりに

 要素要素はいい線に到達しているものの、全体的に雑さが目立ってしまい、僕の中でのトータルの評価は低い作品でした。映画を観て少しでも原作に興味を持って頂いたのであれば、最初の1巻だけでもいいから目を通してみてください。映画にはなかったコミカルな部分など、漫画ならではの良さがたくさんあります。

 

更新情報はTwitterで。  

 

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鋼の錬金術師(1) (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師(1) (ガンガンコミックス)

 

 

その他、映画の感想。

 

アズールレーンはライトユーザをイライラさせないから流行っていると思った

 今更ながらアズールレーンにハマってしまいました。話題になっていたのでちょっと眺めてみようと思いダウンロードしたがきっかけなのですが、こんなに夢中になるとは。クラッシュロワイヤル、シャドウバース、ドラクエライバルズ、スプラトゥーン2などの対戦ゲームを最近ずっとプレイしていたので自分自身とても驚きました。

 中国の会社が開発していることもあって、アズールレーンゲームデザインは既存の国産ソーシャルゲームと比べて少し独特な作りになっています。自分の勉強も兼ねて、なぜこのゲームが流行ったのだろうかというお題で文章を書いていきたいと思います。

 ガチャのSSR排出率が7%と高い設定になっていることがこちらのインタビュー記事で話題になっていましたが、それが流行っている直接の原因ではないと思います。ガチャを当たりやすくするだけで人気が出るほどアプリゲームは甘くないはずです。「ゲーム全体を通してライトユーザをイライラさせないように徹底していることがヒットの秘訣」というのが僕の仮説です。以下の6つの観点から根拠を書いていきます。①SSRキャラ ②装備 ③ランキング ④スタミナ ⑤シューティング ⑥周回プレイ

 自分がハマっているゲームのことを書くのでこのゲームの素晴らしさばかりを書いていくのですが、あくまでライトユーザにとって親切な作りになっていますよという趣旨の話をします。ヘビーユーザから見たゲーム性はまた別の話です。

 この仮説を抱くようになったきっかけの1つにアズールレーン公式 (@azurlane_staff) | Twitterに寄せられるリプライの質があります。一般的にソーシャルゲームの公式アカウントには罵詈雑言ばかりが飛んでくるのですが、この公式Twitterには感謝や労いのコメントばかりが寄せられています。面白いですよね。

⓪前提:アズールレーンとは

 概要を簡単に。アズールレーンは中国の会社が開発・運営を行っているソーシャルゲームです。中国国内の運営を担っているのはビリビリ動画という中国版ニコニコ動画のようなサービスを作っている会社。Yostar, Inc.という日本の会社が日本でのローカライズと運営権利を認められ、日本版が遊べるようになっています。

 ゲームは横スクロールのシューティングゲーム第二次世界大戦のときに実際に戦った戦艦や空母を擬人化させ、史実を下敷きにしながらもゲーム独自の世界観で物語を構築しています。

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SSRキャラの扱いについて

 冒頭でも書きましたが、ガチャの中で一番レアリティが高いクラスであるSSRの排出率が7%に設定されていることが話題になりました。他のゲームのガチャにおいて、SSRに相当するアイテムの排出率は0.1%以下のオーダーであることが多いです。7%は破格の数字です。実際自分が遊んでいても、よく当たるなあという印象は持ちます。

 念のため補足しておきますと、SSRの中でもキャラが10体ほどいるので、1種類のSSRキャラに狙いを絞れば単純計算で確率は10分の1程度になります。それでも十分高い方ですが。

 ただ、アズールレーンのガチャ設計が他のゲームと違うのは確率だけではありません。トータルの設計が独特で、かつ全体として調和のとれたものになっています。

 SSRキャラは当然他のキャラに比べて非常に強いです。しかし、始めたばかりのライトユーザが序盤で「SSRキャラが欲しくて欲しくてたまらない状態」には陥らない難易度設計になっています。キャラの個性よりもパラメータの高さが重要な設計になっているので、そこそこのキャラを手に入れたらあとはこつこつレベルを上げて数値を高くしていけば、序盤は苦労せずに進める設計になっています。「このキャラがいないと勝てない」というステージは基本的にはなくて、勝てないステージにぶつかったらレベルを上げるというのが基本のゲームサイクルになります。

 逆にSSRキャラを使用するとスタミナ消費が大きいので、スタミナの保有量や入手量が少ない序盤ではデメリットになるぐらいです。面白い設計だなと思います。

 もう1つのポイントとして、ガチャチケットが通常プレイで手に入るというのも注目すべきところです。こまめに遊んでいれば1日でガチャを1, 2回引けるぐらいのチケットがコンスタントに集まるようになっています。

 ライトユーザのゲーム体験として、そこそこのレアリティのキャラを使って序盤を攻略しているうちに、高いSSR排出率と豊富に手に入るガチャチケットによって徐々に資産が集まってくることになります。序盤を抜けるとSSRキャラが欲しくなってくるのですが、欲しくなってきたときにほどよくキャラが手元に揃っている感じになります。

 「このキャラがいないと勝てないステージがある」「もっと強くなるためにはSSRキャラが絶対に必要」というような難易度設計のゲームでは、SSRを引けなかったときにユーザは非常にストレスを感じてしまいます。これを排した結果、アズールレーンではガチャがライトユーザの不満の対象になりにくくなっています。

 上記の理由からリセマラが必要ないゲームと評されることが多いです。普通にゲームを始めてコツコツ毎日プレイしている方がマシで、リセマラする時間はもったいないという言い方がよくされます。

②キャラではなく装備がエンドコンテンツになっている

 SSRキャラが簡単に手に入ってしまうと、すべてのプレイヤーが持っている資産が均質化してしまい、ライトユーザに対してヘビーユーザの優位性が出ません。アズールレーンでは、主砲や副砲、魚雷や爆撃機などの装備をキャラに装着して戦います。その装備がヘビーユーザのためのエンドコンテンツになっています。

 装備にもそれぞれレアリティがあり、最もレアリティの高い装備は手に入れるのはかなり大変です。同じステージを百周以上しないと手に入らないものもあります。その分リアリティが高いほど装備は非常に強力になります。キャラのレベルは比較的簡単にカンストするので、その後はいかに強い武器を作るかの勝負に移行していきます。

 キャラは1体手に入れば最低限OKなのですが、装備は装着したいキャラの分だけ作る必要があるので、ものによっては複数必要になります。欲しいキャラの大半を手に入れたヘビーユーザが最後に求めるエンドコンテンツは、このゲームの場合装備になっています。

 しかしライトユーザには装備の重要さをあえて意識させないようになっています。序盤はとにかくキャラが欲しくなりますし、上に書いたようにSSRキャラも入手しやすいのでその欲求は叶えられやすいのです。キャラは可愛い女の子ですが装備はかなり味気ない見た目なのでライトユーザが欲しがるのは間違いなくキャラの方。キャラで釣られて、装備で沼にハマる。そんなサイクルになっています。

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③ランキングはあるが限定アイテムがない

 ランキング機能はほとんどのソーシャルゲームに搭載されているでしょう。ランキング上位に入ると特別な報酬をプレゼントすることでユーザ間の競争を煽り、課金収入に繋げていく重要な機能です。

 アズールレーンにもランキング機能はあり、上位入賞者にはプレゼントがあるのですが、もらえるアイテムは限定品ではありません。ヘビーユーザであっても上位入賞を目指さない人がいますし、もちろんライトユーザも上位入賞しなくてはならないという義務感をほとんど感じません。「ランキングに頑張って挑戦しよう」というふうに煽られることもないです。始めたばかりのライトユーザはランキングの上位に入れないことぐらい百も承知なのですが、限定アイテムがもらえないとなると蚊帳の外にいるような感覚を味わいストレスを感じるもの。このゲームではそれがありません。

 ランキングに挑戦するときはスタミナを使用せず、一定時間で回復する全ユーザ平等のチケットを使うのも面白いところ。ランキング上位に入るためにスタミナに課金することができず、純粋に自分の艦隊を強くしていくしかありません。中級者が頑張って課金して上級者に勝つということがシステム上起きないので、ユーザが疲弊しません。

④スタミナシステムは普通だがバッファがある

 スタミナの上限、回復量、消費量あたりは特筆すべきことはないと思います。上限に対して消費量が少ないかなと思うことはありますが、世の中にはたくさんゲームがあるので比較が難しいところです。

 面白いなと思ったのは、時間で回復するスタミナについては貯蔵プールが別にあって、一時保管のバッファとして機能するところです。(他のゲームにもあるのかもしれませんが僕は初めてみました)スタミナがマンタンになっていると、早く消費しなければと焦りを感じるものですが、貯蔵庫が別にあるのでそのような焦燥感を感じる状況に追い込まれにくくなっています。イライラを減らす良い機能だと思います。

 スタミナに相当する「燃料」というリソースは、ほぼステージに挑戦するためだけに使われます。その他の要素と用途が被っているゲームもありますが、きちんと分けられています。

⑤パラメータで戦うシューティングゲーム

 世の中には、敵弾に1回でも当たればゲームオーバーになってしまう厳しいルールのシューティングゲームもありますが、アズールレーンはそうではありません。弾に当たっても大丈夫。集中力は要求されません。電車の中でも気軽にできます。

 重要なところは、プレイヤースキルを要求されているように見えにくいところです。勝てないステージに当たったときは、パラメータを高くすれば勝てます。逆に数値が足りなければどんなにシューティングがうまくても勝てないようになっています。それがライトユーザにも直観的に分かるので、「負けたのは自分が下手だったから」と感じにくくなっていて、負けたとしてもストレスがたまりません。「レベル上げを頑張ろう」と思えます。

 パラメータが十分高ければ、敵の弾幕に突っ込んでいってこちらの砲撃で真っ向からねじ伏せることもできます。既存のシューティングゲームではあまり味わえない爽快なゲーム体験だなと思いました。

 オートモードも実装されているため、余裕で勝てるステージでわざわざ操作しなくてはいけないというストレスもありません。

 かといってゲームシステムが単純すぎるというわけではなく、キャラ、装備、編成によって操作感はけっこう異なってくるので、自分好みの艦隊を作り上げるはなかなか楽しいです。

⑥番外:お金ではなく時間をささげる周回プレイ

 ライトユーザのことだけ書くと冒頭で宣言しましたが、ここに触れないのは本質を分かっていないと思われそうなので最後に。ある程度ゲームを進めたユーザが取り組むことになる周回プレイについてです。

 SSRキャラの中にはガチャでは入手できず、ステージをクリアしたときに低確率で手に入るキャラがいくつか用意されています(加賀と赤城が代表格)。手に入れるためには同じステージを延々と「周回」しなければなりません。

 SSRキャラだけでなく、前述のレアリティの高い装備、イベント用の特別ステージも周回を余儀なくされる設定になることが多いです。周回には時間とスタミナが必要です。エンドコンテンツなのでこういう要素がないとそもそもやることがなくなってしまうのですが、スタミナには課金ができるため、ガチャでお金を取らない分こちらでお金を取りに来ているという見方もできます。時間も同時に使うことになるため、お金だけ使うガチャの方がまだマシだという人もいます。 

 一般的に基本プレイ無料のゲームの課金ユーザの割合は数%のオーダーです。ヘビーユーザからしかお金は獲れません。彼らにどうやって課金してもらうかを考えたときに、アズールレーンでは周回がターゲットになっている。そちらの方が全体として最適になると判断されたのでしょう。

 ライトユーザのうちは無課金で十分楽しむことができるゲームです。そこから先の扉を開けるかどうかはユーザに委ねられています。

終わりに

 現在の結果だけを見れば、アズールレーンゲームデザインは成功しているといえます。口コミで広がった高評価によりユーザ数は伸び続け、一部のプレイヤーは嬉々として課金をしています。ですが、このモデルが数年間にわたって売り上げを高い水準で保ち続けるかどうかは誰にもわかりません。日本版はサービスを開始して間もないですから。ゲーム会社の人間として、そしてひとりのユーザとしても、今後がとても楽しみです。

 

更新情報はTwitterで。

 

その他、ゲームについて考えたこと。

 


英語リスニングを手軽に続けたいならBBC World Serviceがオススメ

ここ数年愛用している英語のリスニング学習アプリを紹介します。アプリでの英語学習は、自分のニーズにぴったり合致したものを見つけるのが長続きのコツだと思います。以下のようなアプリを求めている皆さん、ぜひ検討してみてください。

 

・通勤時などに英語のリスニングの訓練がしたい

・とにかく手軽に続けられるものが良い

・同じ音声を何回も聞くのは飽きるので嫌だ

・英語の内容はためになるものが良い

・リスニングのレベルは中級以上

 

 個人的にはとにかく手軽なところが気に入っています。

 

アプリの紹介

 「BBC World Service」というラジオ放送をオススメします。アプリを1つダウンロードするだけで簡単に聞くことができます。イギリスのテレビ局BBCが世界中の人に向けて放送しているニュース番組です。僕が探した限り、これが聞けるアプリは2つあるので好きな方を使ってください。

BBC News:iOSAndroid(DLページに飛びます)

 上部のタブを右に動かして「Live」をタップしてください。再生マークですぐに音声が流れます。

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BBC iPlayer Radio:iOS / Android(DLページに飛びます)

 こちらは開いたらすぐにBBC World Serviceを聞くことができます。

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オススメ理由

仕様面

 

・無料アプリ

 

・会員登録やログインは不要

 アプリを開くたびに「セッションが途切れました」みたいなことを言われてログインを求められるとそれだけで学習意欲がそがれます。非常に大事なポイントです。

 

・アプリ起動が早い

 意外と大事です。起動するまでに待たなければいけないことがわかっていると起動率が落ちます。

 

・簡単操作ですぐに音声が聞ける

 これもかなり大事です。学習にたどり着くまでのハードルは下げるに越したことはありません。事前にiPhoneにインポートする必要がある音源などは面倒に感じます。また、①②ともにBBC World Serviceの画面でアプリを閉じたり再起動すると、次に開いたときもBBC World Serviceの画面から始まるようになっています。細かいところですが使い勝手が良いです。

 

・音声だけなので通信容量が大きくない

 もちろんテキストよりは重いですが、TEDのような高画質の動画を見るよりは断然マシです。僕は毎日使いたいときに使っていますが通信制限に引っかかったことはありません。(データの使用量は料金プランや他のアプリの使用状況など個人差が非常に大きいのでご自身の基準でご判断ください)

 

英語面

 

・ニュースキャスターなので発声がクリアで発音がきれい

 

・実践的なスピード

 

・いろいろな話者の英語が聞ける

 メインキャスターがニュースの概要を伝えて、現地にいるレポーターがより詳しく説明するというパターンが多いです。メインキャスターはイギリスにいてブリティッシュイングリッシュを話しますが、現地にいるレポーターは様々な英語を話すので、ブリティッシュイングリッシュばかりを聞くということにはなりません。英語が話せる人であれば一般人の生の声もそのまま放送されます。イタリア人の英語やインド人の英語が流れてくることもあります。

 

・シチュエーションが豊富

 ニュース番組なのですが、ニュースを読み上げる場面ばかりではありません。専門家への1対1のインタビューや、複数人を招いたパネルディスカッションも行われます。会話で使える英語表現や、討論のときに相手の発言を遮って強引に自分の話したいことを押し通すやり方なんかも学べます。

 

ニュース面

 

・世界の人に向けたニュース

 「World Service」という名前なので、世界中のあらゆるところに住んでいる人に向けたニュース番組となっています。BBCはイギリスの会社ですが、イギリスの国内ニュースは流れてきません。世界中で起きている出来事の中から、特に重要なものだけが流れてきます。いま注目すべき世界のニュースがざっと把握できます。

 

・日本やアメリカ目線ではない

 日本人が選んだWorld Newsではなく、イギリスの人が選んだWorld Newsというのがなかなか興味深いです。ニュースとして取り扱われる順番が、「こっちが先に来るんだ」みたいに驚くこともあります。

 

・ニュースだけじゃない

 ニュースだけを延々と放送しているわけではありません。特集番組が合間に挟まります。歴史の話、音楽の話、「アフリカの今」特集をやっていることもありました。

 

デメリット

 

・答え合わせができない

 音声と合わせてテキストも読むことができるアプリもありますが、このアプリにそのような機能はありません。聞き取れなかった英語はどんどん流れていってしまいます。じっくり1語1語聞き取る練習をするのには不向きです。

 

・長時間聞いていると同じニュースが流れてくる

 重大なニュースが頻繁に更新される日は別として、長時間聞いていると同じ内容が何度も流れてくることになります。僕は通勤の合間の短時間に使っているので問題にはなりません。

 

 

 冒頭でも書きましたが、自分のニーズとぴったり合致したものを選ぶのが大事だと思います。1つの参考になれば幸いです。

 

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 そのほか

 

 

 

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日本のe-sportsの現状 - Shadowverseのプレイヤーとして

 11月11日・12日にかけて行われたShadowverseの大型大会「RAGE」の予選に出場してきました。日本では数少ない、高額の賞金が掛かった大会を実施しているアプリゲームであるShadowverse のプレイヤーとして、また、ゲーム業界の末席でゲームのことを考えている人間として、日本のe-sportsについて書いてみようと思います。(ちなみに予選Day1は突破できました!)

 この文章の軸にしたいのはこちらの4点。

・日本のe-sportsはどのようなレベルにあるのか

・ゲームのプレイヤーたちはそれをどのように捉え、どのように参加しているのか

e-sportsの関係者たちの利害関係はどのようになっているか

・ゲーム業界に属していないビジネスマンや企業は、e-sportsをどのように活用できるか

 e-sportsへの関わり方は大きく分けると「出場する」と「観戦する」に分けられますが、僕はひとりのShadowverseプレイヤーとして、「出会う」という機能も重要視したいと考えています。長い文章になりますが、「1.概要」「2.出場する」「3.観戦する」「4.出会う」という風に章立てをして、上記の軸に沿って書いていきたいと思います。

1.概要

Shadowverseの概要、および大型大会の歴史

 Shadowverseとは、Cygamesが開発・運営を行っているiOS/Android/PC向けのデジタルカードゲームです。ゲームの基本は1対1の対人対戦で、オンラインを介してマッチングした相手とリアルタイムで戦うゲームです。

 配信が開始されたのは2016年6月。2017年11月現在のダウンロード数は1400万を超えます。賞金を懸けた大型の大会の開催を積極的に行っており、今回僕が出場した「RAGE」は6回目の開催でした。

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https://rage-esports.jp/event/ssl-higasi10-day1-repoより、10月の予選の様子

 

 今回の大会の予選は3会場で行われ、参加者の合計は 7000人。倍率は明らかになっていませんが予選への参加資格は応募・抽選によって決められます。予選参加費用は無料で、優勝賞金は400万円、賞金総額は1000万円となっています。前回大会までは18歳以上の参加に限られていましたが、今回からは16歳以上18歳未満も所定のステップを踏めば参加できるようになりました。

 「RAGE」とは、日本でのe-sportsの発展を目指して作られたCyberZという会社が運営している大会の総称です。Shadowverseの他にも格闘ゲームストリートファイター」やサッカーゲームウイニングイレブン」などの大会が開かれています。この中でもShadowverseは最も高額の賞金が掛けられています。

国外ゲームの大会の場合

 Blizzard社が提供するデジタルカードゲームHearthstoneの場合を見てみます。世界展開されているゲームであるため、大型の大会は世界各地で頻繁に行われていて、上位入賞者にはポイントが加算されていきます。多くのポイントを獲得した選手はそのシーズンのチャンピオンを決めるシーズンプレイオフへの出場権が与えられます。その賞金総額は100万ドル(1億円強)となっていて、Shadowverseよりも一ケタ多くなっています。おそらく参加人数も一回り大きくなっているでしょう。

 最も高額の賞金が掛かるタイトルはValve社が提供するストラテジーゲーム「Dota 2」であると言われています。こちらのredbull社の記事には以下の記載があります。

8月12日に終了したThe International 2017には、なんと2,400万ドル(約26億8,880万円)以上というとんでもない賞金総額が用意され、優勝したTeam Liquidは約108万ドル(約12億1,500万円)を獲得した。

 ざっと調べたところShadowverseを大きく上回る額の賞金が掛けられたゲームの大会は見つかりませんでした。確定的に日本一だとは思いませんが、高水準にはあるでしょう。(※参加人数だけ見ればShadowverseよりも多いゲーム大会はたくさんあると思います)しかし上述したように、Shadowverseの賞金総額は欧米の主要タイトルの10分の1から100分の1ぐらいだと概算されます。

 日本におけるe-sportsの大会の賞金額については法律上の制約がかかっていて、それを解説するのはこの文章の本旨ではないため割愛します。この文章は現状を整理したいと思って書いていますので。

 というわけで、日本の現状をざっと概説したところで、ここからはe-sportsへの関わり方を「出場する」「観戦する」「出会う」という切り口から見ていくことにします。

2.出場する

出場者の傾向

 Shadowverseの大会に参加している人の年齢層は18 – 24歳がメインです。データを見たわけではないですが会場を見渡した限り9割はここに当てはまっていると思います。

 e-sportsというと敷居が高そうに感じるかもしれませんが、参加費用が無料であること、サイドイベントを併催したり声優さんを呼んだりして参加しやすい雰囲気づくりがなされていることもあって、ライトな層が比較的多く参加しています。彼らは普段プレイしているゲームのイベントの1つとして、そのゲームの延長線上に自然と大会が存在していると捉えています。ライトな層もかなりいる、ということは認識を誤ってはいけないところだと思います。

 もちろん、コテコテのゲーマーもいますし、賞金稼ぎに来ている人たちもいます。Shadowverseはカードゲームなので、遊戯王magic the gatheringなどのトレーディングカードの経験者が多いのも特徴です。彼らは大会の賞金を目当てに複数のカードゲームを掛け持ちしていて、アプリゲームであるShadowverseにも進出してきています。賞金が魅力的であればあるほどそのゲームに集まってくる賞金稼ぎは大きくなりますから、多額の賞金を出せる体力のあるゲームほど大会を大きく設計することが可能になります。

マーケティングの場として

 e-sportsの大会会場は、それなりに多い人数が一か所に集まる場です。参加者の傾向は比較的絞られているため、狙っている層が合致していれば効率の良い宣伝を行うことができるのではないかと思います。

 大会に来るようなプレイヤーはそのゲームへの熱中度や貢献度が非常に高いのも見逃せないポイントです。そのゲームとのコラボ施策を展開する場合、コンバージョンレートが最も高くなると言っても過言ではないと思います。

 Shadowverseの大会では以下のような宣伝活動が行われているのを見ました。

格安SIM(LinksMate)

 特定のアプリゲームをプレイするときの通信データ量を割引でカウントする料金プランを用意し、ゲームし放題を謳っていました。アプリゲームの大会ならではの非常にダイレクトな繋がりの商品です。会場ではモバイルバッテリーの貸し出しを行うことで出場選手との接点作りを図っていました。

・カップ麺(日清)

 大会の会場に入るときにひとりひとつ手渡されました。まさにダイレクトマーケティング。ゲームが好きな若者とカップ麺の相性は抜群であることを知っているのでしょう。

・マリオオデッセイ(任天堂

 前回の大会のときは、なんと天下の任天堂が宣伝に来ていました。しかも無名タイトルではなく、誰もが知っているはずのマリオのSwitchの新作です。ゲーム好きが集まってくる場ということでターゲティングはばっちりということでの出展だったのでしょうか。

・クレジットカード(三井住友VISAカード

 こちらはかなり離れ業。ゲームのデザインをあしらったクレジットカードです。若者にクレジットカードをアピールするときに、いろいろな方法を模索して試しているのでしょうね。

 

 どの企業もまだまだ手探り状態だと思うのですが、大会に協賛してくれる企業が増えれば大会の規模をもっと大きくすることができ、より多くのプレイヤーが参加してくるようになります。

3.観戦する

e-sportsの弱点

 e-sportsを他のプロスポーツと同等の地位まで引き上げたいのならば、観戦するだけでも面白くなければなりません。ここはe-sportsにとってネックなところだなと考えています。

 サッカーや野球を観戦して楽しんでいる人は多いです。日本シリーズやワールドカップは非常に盛り上がります。しかしプレイしたことのない格闘ゲームの大会はどうでしょうか?コンマ何秒を争う駆け引き、超人的な反射神経を駆使したカウンターなどと言われても、そのすごさが可視化されずプレイしていない人にはすごさが理解できません。

 ですので、e-sportsは大衆向けのショーとしては機能していません。観戦する人はそのゲームのプレイヤーに限られています。オリンピックはショーではないのでe-sportsを正式競技にしたいというムーブメントは筋の悪いものではないと思います。一方で、ゲームをしない人からの理解は永久に得られない恐れがあり、それはどこかで発展の妨げになるのではないかと僕は危惧しています。

スタープレイヤー

 上述の弱点があることはe-sportsの運営側もわかっていることでしょう。Shadowverseが目指している方針の1つに、スタープレイヤーの発掘・育成が挙げられます。

 ゲームの中でどのような奥深い駆け引きが起きているかは、そのゲームに精通している人ではないとわかりません。しかし、そのプレイヤーそのものに興味を持ち、ファンになってもらえれば、楽しんで見てくれるかもしれないというわけです。

 例えばこちらのCM。選手にスポットライトを当てているのが分かると思います。

 試合前にも、気合いの入った選手紹介動画がひとりひとり流れます。そのプレイヤーがどんな人で、これまでの大会でどのようなドラマがあったか等を見せるわけです。e-sportsを観戦していて楽しいものにするという目標に対して、根本的な解決策ではないのですが、プレイヤーにも注目してもらうことは重要なことだと思います。

 スタープレイヤーを作ることは副次的な効果があって、他のコンテンツにも彼らを起用することができます。何かイベントをやるときに有名プレイヤーを呼ぶことで、低コストの客寄せパンダを作ることができます。彼らがSNS上で発信する情報は、多くのプレイヤーにとって貴重な情報源になるので自然とフォロワー数が膨らんでいきます。ネット上のインフルエンサーとして、ゲームの動向を拡散してもらうことができます。

芸能人・声優・コスプレイヤー

 芸能人をe-sportsの会場にゲストとして登場させて、その大会に興味を持ってもらうと同時に、観戦している人たちを楽しませるという工夫もよく行われています。古典的な盛り上げ方法ではありますが、e-sportsの場合はそのゲームをプレイしてくれていないと効果が出ないという意味では特殊です。Shadowverseでは武井壮氏がよく起用されますが、彼はかなりしっかりゲームをプレイしてくれているので、プレイヤーも好意的に受け止めています。

 声優を呼ぶのもよく採られる方法です。最近のゲームはボイスつきのものが多く、ゲームの中のキャラの声を担当している声優さんが出演するとなると、プレイヤーの食いつきは良くなります。ゲームが好きな人はアニメが好きな人も多いので、親和性が高いと言えます。

 コスプレイヤーが登場することも多いです。ゲームのキャラクターというのは特徴的な格好をしていますのでこちらも親和性は高いと言えます。

 逆に、芸能人・声優・コスプレイヤーの側から見てみると、自分が好きでプレイしているゲームをきっかけにして仕事が舞い込むことになるとともに、テレビに出演するのとは全然違った層に対して自分を売り込んでいくことができるでしょう。声優さんにしても、アニメではなくゲームから有名になっていく新たな道が拓かれているのだともいえます。コスプレイヤーも、最近は有名になって活躍の場を広げていっている人を多く見るようになりました。その足掛かりとしてゲームのイベントを活用していくことができます。

 大会を観戦している人たちを楽しませるという目標に対して、大会の運営側と有名になりたい人たちがwin-winの関係を築けているのではないかと思います。

動画配信のプラットフォーム

 野球を観戦するとき、テレビ中継で見るのも楽しいですし、球場に足を運ぶのも楽しいですよね。一定の視聴者数を見込めるのでプロ野球のテレビ中継はゴールデンタイムにも放送できますし、球場はそこそこの入場料を取ることができています。

 e-sportsも、会場に行って観戦するスタイルと、行かないで観戦するスタイルを確立することはできています。観戦するという側面は弱点を抱えている部分ではあるものの、この点はポジティブに捉えることができます。

 会場に行かずにe-sportsの観戦を可能にしているのは、動画配信のプラットフォーマーの存在のおかげです。ゲームをプレイしている様子を一般ユーザが配信する「ゲーム実況」というスタイルは日本にもきちんと根付きました。他の人がゲームをしている様子を見るのを楽しんでいる人は多いです。e-sportsの大会の中継は、見ている分にはゲーム実況動画とあまり違いがありません。

 ゲーム実況にはコメント機能があって、これが独特の空間を作ります。リアルタイムでその動画にコメントを入れることができ、実況しているプレイヤーと、同時に見ている人に語り掛けることができるので、ゲームをプレイしている人と見ている人の間に相互のコミュニケーションが発生します。

 e-sportsの場合、プレイヤーは勝負に集中していますから、コメント機能は主に大会の解説席と観戦している人の間のコミュニケーションを生みます。解説者と同じ目線で大会の様子を見守る人、自分の知り合いを応援する人、大会の出場者のプレイにケチをつける人などが同じ場を共有していくあの空間は、e-sports独特の空間と言えるのではないでしょうか。

 動画配信のプラットフォーマーはこの意味でe-sportsの片翼を担う存在です。日本ではニコニコ動画の不調が報じられ、Shadowverseの大会はOPENREC.tvという新参のプラットフォームで配信が行われています。海外ではTwitchが一大勢力となってゲーム配信を支えています。覇権争いはまだまだ続きそうです。

 動画配信ですから、動画広告を入れることができるのですが、e-sportsの大会の配信中に広告が入ってくる事例はあまり見たことがありません。大会の配信を見ているひとは、大会に出場するひとと同等のセグメンテーションをされているので、ターゲットを絞った広告を撃つことができるはずです。試合と試合の間には準備時間がつきものですから広告は入れやすいはず。今後開拓されてほしい側面です。

4.出会う

ゲームのために作ったSNSアカウント

 アプリゲームはオンライン上で動くものですから、ゲームの中で対戦する人は遠くの見知らぬ誰かである可能性の方が高いです。その特性上、SNSがちょうどよい距離のコミュニケーションを促進しています。

 「ゲーム内のランキングで上位にいるあのひとのTwitterアカウントをフォローすることで、その人が発信する情報をキャッチアップする」「身近にこのゲームをプレイしている人はいないので、ゲームのことに関して話せる知り合いを求めて」こんなようなニーズから、特定のゲーム専用のアカウントを持っている人は多いです。

 e-sportsに目線を移します。とっておきの戦術のアイディアをひらめいたとき、それをSNSで発信したら大勢のプレイヤーにバレてしまいます。トレーディングカードでもよく見る光景ですが、自分と目指すところを同じとするプレイヤーに声をかけてチームを結成し、そのメンバーの中でとっておきの作戦に磨きをかけるという動きがよく見られます。Twitterは複数人で話し合うためのツールではないので、LINEのようなものへと媒体を変え、より親密なコミュニケーションをとるようになります。

e-sportsという巨大なオフ会の会場

 ゲーム専用アカウントでのコミュニケーションは、親密なものに発展する可能性があるのですが、あくまでオンライン上の接触です。相手の年齢や顔、本名を知らないのは当たり前で、性別が分からなくても気にされないこともあります。この辺はもう、ネットに慣れた方には当たり前ですね。しかし目的を同じとする彼らが必ず集まる場所があります。それが大会の会場です。

 大型の大会の後はこのようなツイートをよく目にすることがあります。「あの人は(ネット上では)変なひとだとだと思っていたけど、(会ってみたら)ものすごくさわやかな好青年だった」。彼らはお互いへ認識を改め、そこで仲たがいも多少はあるのかもしれませんが、基本的には親交をより深めてお互いの生活圏へと帰っていきます。ネットだけでのつながりが、リアルな繋がりへと変貌する場所。それがe-sportsの会場だったりするのです。

 もちろん、オンライン上の関わりが全くなかったとしても、その場で友好関係が生まれることだってあります。特にe-sportsは相手との真剣勝負をするので単なるオフ会よりも相手と深くかかわります。負けた相手を憎むことも当然あるのですが。

 また、自分と同じぐらいこのゲームが好きなひとがこんなにいるんだと、身をもって実感する場所でもあります。このゲームをまだまだ続けようと、エンゲージメントを高める役割もあります。

 こういう側面をビジネスにするのは難しいのかもしれません。しかし、e-sportsの会場は殺伐とした戦いの場であると同時に、多くの出会いが生まれる場所であることを、そしてその出会い方はいささか特殊であることを認識しておいてほしいと思います。

終わりに

 以上、僕が普段から経験していることから、日本でのe-sportsの現状と、主要な関係者たちを俯瞰してみました。

 「e-sportsはゲームが生き残るただ一つの道」だとは全く思いませんが、「ゲームにスポットが当たる良い機会」だとは思います。途中で少し書きましたが、賞金が大きくなるほど参加人数は当然増え、巻き込まれる人の数がさらに増えていきます。

 僕はゲームが1つの文化として、どんな年代の人にも認められる社会が来るといいなと考えています。e-sportsのムーブメントをきっかけに、ゲームに関わる人生を歩むことになる人が増えれば、その一助になると思っています。これからの発展に期待しています。

 

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その他、ゲームについて考えたこと。

TwitchCon2017に参加してきました

2017年10月20日~22日にかけて開催されたTwitchCon2017に参加してきました。ゲーム専用の動画配信プラットフォームであるTwitchが開催しているカンファレンスで、ニコニコ超会議のようなものと言えばピンとくる方も多いと思います。

概要

開催場所はアメリカ、カルフォルニアロングビーチで、会場はLong Beach Convention and Entertainment Centerでした。

ニコニコ超会議のように、ゲーム会社がブースを出して大会を開催したり、有名人を呼んだり、参加型のイベントをやったりしていました。Twitchを使ってゲームの配信を行っている配信者同士のコミュニティを大事にしているようで、イベントのホームページには「Creating Community」の文字が大きく表示されています。ゲームキャラのコスプレをしている人が登場するブースもありましたが、参加者がコスプレをする文化はないようでした。

例えば、こちらはアリーナを1つまるごと会場に使用したH1Z1というFPSゲームのブース。観客席の上の方までびっしりとお客さんが座っています。すごい盛り上がりでした。

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入場料は3日間のパスで179ドル(2万円ほど)。ちなみにニコニコ超会議の入場料は2日で2500円です。

チケットを買うときは必ず自分のTwitchのIDと紐づける必要があるのがユニークなところです。Twitchには、配信を積極的に行っていて視聴者数の多い配信者を「Partner」として公認するシステムがあり、Partnerの入場パスを持っていると様々な特典を受けられます。

驚いたこと

2点ほど。 

1.ブランドとしての人気

Twitchの公式Tシャツやパーカーを着て参加している人をたくさん見かけました。Twitchのロゴが大きくプリントされたシンプルなものです。これはニコニコ超会議には見られない光景でした。

Twitchというブランドがクールなものとして認知され、自分がTwitchのコミュニティに参加していることを誇らしく感じている、そんなような雰囲気を参加者から感じました。このようなムードが醸成で来ていると、ユーザのTwitchに対する貢献度も高まりますし、コミュニティ外の人へのアピールにもなるので上手くブランドが作れているのだなと思いました。

会場限定グッズの販売ブースには長蛇の列ができていて、僕は購入を諦めたほどでした。 

2.お金のかけ方、かかり方

入場料が比較的高めであるにもかかわらず、多くの人が来場していました。強気の値段設定は自信の顕れですね。

また、中日の10/21の夜には大規模なパーティが開催されました。パスを持っている人は誰でも入場可能なイベントです。目玉は大きな客船を一艘まるごと貸し切り。船の中でパーティを行うのかと思いきや、船の中に7つのお化け屋敷が作られていました。お金のかけ方の方向性がよくわからない…。

船の外の広場にはたくさんのテントが立ち並び、参加者は飲み食いを楽しんでいました。即席の遊園地アトラクションなんかもありました。

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お金の匂いをまき散らすというのはプラットフォーマーにとっては大事なことでしょう。匂いにつられてたくさんの人や企業が寄ってきていることだと思います。

日本のゲーム配信プラットフォーム

ニコニコ動画の不振が伝えられるこのご時世、日本でのゲーム配信プラットフォームの主導権争いは熾烈を極めています。ニコ生、ツイキャス、YoutubeLiveから新興勢力のOPENRECやMirrativなど、それぞれが個性を活かしてユーザの拡大に躍起です。Twitchの個性はゲーム配信に特化しているというところ。今後の展開から目が離せません。

配信プラットフォームを分析する上で、配信者がお金を稼げるかどうかは、ゲームという文化そのものに大きく影響をしてくると僕は考えています。職業:ゲーム配信者が成立するかどうか、そこまでいかなくても、ゲームが好きな人がゲームをプレイすることで小銭が稼げるようになれば、ゲームというものの社会的地位は変容してきます。

また、e-sportsという文脈もゲーム配信プラットフォームには絡んできます。Twitchは多額の賞金がかかる大会を主催していて、e-sports文化の発展に一役買っている存在です。日本では法律によって賞金額が制限されるなど、まだまだe-sportsが普及しているとはいいがたい状況ですが、これが当たり前の存在になれば、対人ゲームが主流になるのかもしれません。

おわりに

まとまりがなくなってきたのでこの辺で。今回TwitchConに参加してみて、ゲーム配信プラットフォームがどのように使われていくかは、ゲームという文化の今後を左右していくものだなと改めて感じました。

 

その他、ゲームについて。 

 

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ラブプラスVRが本当のVR時代を切り拓く予感がしたTGS2017

東京ゲームショウ2017(以下TGS)のビジネスデーに行ってきました。今年一番の衝撃はコナミのブースのラブプラスeveryでした。ポケモンGOがARという技術を大衆化させたように、ラブプラスはVRを大衆化させるかもしれない、とさえ思った話をします。

ラブプラスeveryとは

ラブプラスは、もともとニンテンドーDSで発売された恋愛シミュレーションゲームのシリーズです。女の子を一人選び、その子と最初からずっと恋人同士で、その日常が続いていくという設定。女の子を「攻略していく」一般的な恋愛シミュレーションとは一風変わったシステムが話題を呼びました。

今回のTGSで展示されていたのでは、今年の冬にリリース予定のスマホアプリ版。最大の特徴はモバイルVRに対応している点です。普通のスマホアプリとしても遊べるのですが、一部モードではスマホをVRゴーグルに装着することで、お手軽にVR体験を楽しむことができます。

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TGSブースでの体験

TGSラブプラスブースでは、参加者は個室に通され、スマホ、VRゴーグル、ヘッドホンを用いてラブプラスeveryのVR部分を体験できます。個室には学校で使っているような一人用の机が置いてあります。高校生の恋人同士という設定のラブプラスを盛り上げるためのただの演出だと思ったらそれだけではありません。

VRゴーグルを装着した瞬間、自分は高校の教室にワープします。現実世界で自分が座っていたものと同じ机に、仮想世界の自分も座っている。たったこれだけの工夫で、一気にこの世界に引き込まれてしまいました。

また、ブース設計も一工夫されていて、どの個室においても机に座ると右側に出口があるように作られています。これもゲーム内での教室の配置と一緒。主人公は黒板の方を向いていて、向かって右手に教室の出入り口があり、女の子もそこから出入りするのです。

VRの操作に慣れるためのチュートリアルが少しだけあって、女の子が登場。「まるで現実世界と見間違うような」とまで言うと誇張になるのですが、音響効果も相まってそこに人がいるかのような臨場感は味わえました。女の子が顔をぐっと近づけてくるシーンでは本当に息遣いが感じられるかのようでドキドキしました

あっという間に体験時間が終わってしまったのは、体験版が短かったからか、それとも没入しすぎて名残惜しかったからか。最後では女の子が教室から出て行ってしまってシーン終了となるのですが、それが本当に残念に感じられてしまいました。その日一日しあわせな気分で過ごすことができたぐらい、衝撃の体験でした。

僕はゲームで酔いやすい人間なのですが、全く問題ありませんでした。景色が激しく動くものではないからなのかもしれないですね。

何がすごいのか

ここで僕が強調しておきたいのは、VRのクオリティではありません。(さっきまでさんざん女の子との触れ合いが楽しかった話を書いておきながらこんなことを言うと説得力がないかもしれませんが)この製品がすごいのは、VR体験の手軽さです。クオリティの面では当然プレイステーションVRには勝てません。あれはVR専用のゲーム機ですから。価格も雲泥の差です。

だれもが持っているスマートフォン、一枚の段ボールから組み立てられるゴーグル、量産可能なレンズ2枚、どこにでもあるヘッドホン(またはイヤホン)で、すべての男をにやけさせる体験が提供可能な時代になったのです。革命的だと思います。

TGSのブースでは、自分が使用したVRゴーグルはそのまま持って帰ることができます。無料プレゼント。多少コストはかかっていると思いますが、逆に言えばそのぐらいのコストしかかからないものであるということです。一般流通での大量展開が可能でしょうし、PRキャンペーンの無料配布だって可能です。VRを一般に普及させていく過程で一番ネックとなる専用デバイスの普及をどのように行うかという課題を、簡単にクリアできる。

そこに、いままでコナミが積み上げてきたスマホアプリゲーム運営のノウハウが加わります。公式発表の中に記載がないのでどうなるかわからないですが、基本プレイ無料にした方が稼げそうな感触を僕は持っています。多くの人にこのゲームを体験してもらい、お金を投入できる余裕と情熱がある人をターゲットにしていく。女の子にプレゼントできるものを課金アイテムとして売れば、貢いでしまう男性はきっといるはず。VRという点は特殊ですが、普通のスマホアプリとして運営できるでしょう。

そして何よりコンテンツがわかりやすい。彼女といちゃいちゃするだけ。こういうわかりやすさは黎明期には重要で、どんなに機械に疎いひとにもこのゲームでどんなことができるのかが理解できる。そしてVRがどのような技術なのかを身をもって知ることができるのです。

PSVRが発売された2016年がVR元年だと言われるようですが、個人的には大衆に普及した年をVR元年だとした方が良いと思いますし、今年の冬がそれにあたるかもしれないなと考えています。

課題と今後

さて、ここまでさんざんラブプラスによってVRが爆発的に普及するという話を書いてきたのですが、ラブプラスだけではこれを達成することができないと考える理由が1つあります。それは女性を取り込めないということです。ポケモンGOによってARが世間に認知されたのは、男性も女性もプレイしたからだと思うのです。

もちろん、ゲーム業界はその課題をきちんと認識していて、女性を取り込めるコンテンツの開発には余念がありません。TGSでも様々な女性向けVRコンテンツの展示がありました。欲を言えば、ラブプラスと同じタイミングで女性向けのゲームも同発させて、VRゴーグルをどちらにも使えるような形で売り出せると強いなと思います。単純掲載でターゲットが2倍ですから。

ゲーム業界は、次世代を切り開くコンテンツが1つ現れると、各社がそれを模倣して発展してきた歴史があります。パズドラが流行った後にパズルゲームが大量につくられたように、ラブライブがヒットしてから各社がアイドル音ゲーに参入してきたように。ラブプラスが、本当のVR時代を切り拓く存在になる。そんな予感を強く頂いた今年の東京ゲームショウでした。

理系院卒でゲーム関連企業に就職した身としては、このようなムーブメントは冥利に尽きますね。エンターテインメントが技術を発展させていくこともあるわけです。

 

 

その他、ゲームについて考えたこと。

  

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ゲーム会社の人間が生まれてはじめてディズニーシーへ行って感じたこと

 生まれてこのかた東京ディズニーリゾートに足を踏み入れたことがなかったのですが、先日ついに行く機会を得まして、数人の友人と東京ディズニーシーへ行ってきました。朝から晩まで歩き回って、ショーを見たりアトラクションに乗ったりとへとへとになるまで遊びました。単純に楽しむだけでなく、自分の仕事に繋がっているように見える点も多く、ディズニーが長年をかけて培ってきたノウハウに関心しきりの1日となりました。忘れないうちに書き残しておきたいと思います。

 

① 目に飛び込んでくる景色の作り方

 初っ端から感動したことがありました。シーに入場して広場を抜け、メディテレーニアンハーバーに足を踏み入れた瞬間のことです。アーケードをくぐるとともにぱっと視界が開けて、手前に水面がきらめく港、奥に赤く光る火山、奥には大きな船、異国情緒あふれる街並…と異世界の景色が一気に展開されました。あの景色は圧巻で、今でも目に焼き付いています。

 余計なものを配置して奥の景色を邪魔しないように注意深くデザインされているのが伝わってきました。ディズニーシーの世界を特徴づける要素をそこここに散りばめながらも、全体として統一感がとれている。まるで一枚の絵のようでした。足を踏み入れる手前にはあえてアーケードを用意し、視界を遮ってから一気に開放するのもニクイ演出です。

 景色が見えた瞬間、思わず「うわー!」という声が漏れてしまいます。違う世界に来たんだということを五感全体で感じられて、一気にこのディズニーの世界に没入し、ワクワク感が高まっていきました。テーマパークでお客さんに真っ先に体験させるべきことを、景色だけでやってのけるわけです。恐れ入りました。

 他にも、エリアの切り替えのときに目に飛び込んでくる景色はどこもお見事で、ミステリアスアイランドに入ったときや、アラビアンコーストに入ったときに飛び込んできた景色がとくに印象に残っています。

 

 RPGを作るときに大いに参考にすべき事例だと思いました。いかにプレイヤーをその世界に没入させワクワク感を与えられるかという要素は、ユーザ体験の深いところに効いてくるでしょう。新しい街やダンジョンに到着したときに、最初にどんな景色を画面に広げるか。マップを作るときにはそこにもきちんと意識を向けながら作るべきだと思いました。

 新しい街に入ったとき、システム側が勝手にカメラを動かして、ここにはこんなものがあるよ、と教えるゲームもありますね。それは自由自在に視点を動かせるゲームだからことできる技で、もちろん悪いことでは全くないと思うのですが、人間の目の動きではありません。パッと目に入る全景というものにも注意を払っていきたいなと思いました。特に、VRのゲームは「自分自身の等身大の視点」というものを意識させられることになると思うので、ディズニーで味わえる実体験は大いに参考になりそうです。

 ゼルダの伝説BoWでは、遠くに見えているタワーや山に実際に登ることができてしまうので、景色の作り方も慎重にならざるをえなかったという話を開発者インタビュー記事の中で読んだ覚えがあります。今までは、奥に広がる景色はハリボテというゲームも多かったですが、オープンワールドのゲームでは誤魔化せなくなります。景色のデザインはますます重要になってきそうです。

 

② 背景知識とコアユーザ・ライトユーザ

 それぞれのエリアや1つ1つのアトラクションにはしっかりとしたバックボーンとなるストーリーがあって、目を凝らすとその要素が随所に散りばめられているという話を聞きました。ディズニーに詳しい友人が一緒にいたので、そのうんちくを聞いているだけで待ち時間があっという間に過ぎていきました。

 大部分のゲームは起承転結のあるストーリーをベースに作られているわけですが、そのストーリーの見せ方、およびライトユーザとコアユーザへ向けてどのようなコンテンツを用意していくかというところを考えさせられました。

 ディズニーリゾートにはアトラクションの背後にあるストーリーを理解できない小さな子供もお客さんとしてたくさん来場します。大人であっても、テーマパークには小難しい話など求めていなくて、単純にアトラクションを楽しめれば良いと思っている人もいるでしょう。そういう人たちに、「このアトラクションの背景にはこれこれこういうお話があって…」と講釈を垂れるのは悪手だと思うのです。彼らにとってはノイズにしかならず、満足度は低下してしまいます。アトラクションだけではなくショーの中でもストーリーは最小限に抑えられていました。

 ディズニーは、背景知識を持っていない人には無理にそれを求めず、身に着けさせる努力もせず、単純にテーマパークの雰囲気を肌で感じてもらい、アトラクションを楽しんでもらえる場所になっていると思いました。そういう楽しみ方で満足してくれるのならそれでいいし、もっと知りたいと思った人が深堀りしてみると意外といろんな発見がある。そういう構造になっているのかなと僕なりに考えました。

 

 ゲームっぽく捉えるならば、バックボーンとなるストーリーをあえて引き算してコンテンツを作り、コアユーザ向けにはそのバックボーンをやり込み要素として用意している構図とでも言えるでしょうか。ゲームに限らず、エンターテインメントの世界におけるコンテンツを作る際には、無理に足し算をするよりも、何かを引き算している方がすっきりとしてわかりやすいものになります。映画の作り方に似ていて、大量の設定を用意してお話を形作るものの、実際に映画のシーンとして映るのはその一部になる、みたいな感じです。

 このストーリーを引き算してしまうディズニーのやり方は、ゲームにはなかなか取り入れられないなと思いました。そのゲームのストーリーが100あったとしたら、プレイする人全員に100を見てほしいと思い導線を作るのが普通です。ライトユーザのために何かを引き算するということはせず、コアユーザのためにやり込み要素を足し算する。そのためライトユーザにとってはやり込み要素がノイズだと捉えられてしまうこともあるでしょう。コアユーザにとっても、やり込み要素は付け足しで作られるため本筋とは関係のない要素になりがちで、どうしても作業感が強くなってしまう。そうではないゲームもたくさんありますが、意識せずに作るとこういう事態に陥る可能性があるなと思います。

 またまたゼルダBoWの話になってしまって恐縮ですが、このゲームではストーリーがあまり明示されない代わりに、ウツシエの場所を巡ってリンクが自分の失われた記憶を集めていくという要素があります。ストーリーを「集める」という感覚でゲームがデザインされており、ストーリーのムービー自体をユーザのご褒美とするという、今までになかったゲームデザインに挑戦されています。こちらのファミ通のインタビュー記事に詳しいです。

 一方でこれはディズニーだからこそできる離れ業だと考えることもできます。来場者がだいたいの話の流れを知っている前提でコンテンツを組み立てることができるのはディズニーの大きな強みです。ゼロからスタートするIPには真似できるものではないでしょうね。

 

③ 関連商品の展開

 お揃いのTシャツを着て来場しているお客さんをたくさん見ました。せっかくディズニーに来たのだから、何かグッズを身に着けていこう。そういう動機はよく理解ができるところです。

 ゲームがある程度人気を博してくると、そのキャラを使った関連商品を展開するパターンは多いです。しかしゲーム会社がやっている商品の横展開と、ディズニーのやっていることは似て非なるものだなと思いましたし、ゲーム会社は安易にディズニーの真似をしようとしてはいけないなとも思いました。

 ディズニーの場合、テーマパークに行くという行為を中心にして商品を作ることができるので、来場するときに持っていきたくなる商品を作ればシナジーを得ることができます。これが本当に強力なビジネスモデルだなと思いました。Tシャツが可愛くて思わず買ってしまったので、ディズニーランドに遊びにいく計画を立てよう、という風にお客さんを動かすことができます。パーク外のディズニーストアなどで商品を購入させたことを、そのまま来場したいという動機につなげることができるというわけです。

 一方ゲームのキャラクターが描かれたTシャツはなかなか着ていく機会がないですよね。ゲームのオフラインイベントだとか大会などには来て行けますが、それ以外ではパジャマになりがち。ゲームをプレイするというシーンに結び付けられないので、Tシャツを買ったことをビジネスの根幹には繋げることができません。Tシャツを例に挙げましたが、それ以外のものについても同様で、ディズニーランドに持っていくために関連商品を買うということはあっても、ゲームをプレイするために関連商品を買うということは稀です。

 ビジネスモデルの違いという大きな溝が横たわっていることを理解し、「ディズニーみたいに横展開しようよ!」なんていう甘い考えは捨てた方がいいなと改めて思いました。

 

終わりに

 ディズニーに詳しい方からするともっと違ったものが見えているのかもしれませんが、この間初めてディズニーに行った自分からするとこれだけのものが浮かびました。異業種から参考にするというのは重要なことなので、これからも機会があれば通って発見を続けたいですね。誘ってくれた友人に感謝です。

 

 ゲームとは関係がないのですが、素晴らしいプロ意識でおもてなしをしてくださるスタッフさんがほぼ全員バイトだというのも驚きましたね。昔この本を読みましたが、人材育成の面でもディズニーが積み重ねてきたものの偉大さを思い知りました。

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