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理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

「女は女であるということですでに共犯者だ」という名文に撃ち抜かれた話

理解できるはずがない。してもらいたいとも思わない。女はいつだって、女であるということですでに共犯者だ。

 「女であるということですでに共犯者」。この言葉をみなさんはどう解釈しますか?まさか文字通り、犯罪の片棒を担いでいるんだとは取りませんよね。

 小説のたったワンフレーズが、胸の奥にしまいこんだ感情を掘り起こしてしまうことがあります。唯川恵さんの直木賞受賞作『肩ごしの恋人』の一節は、僕が「女同士の関係」というものに抱いていた「恐怖」を呼び起こしました。

 この作品の主人公は、5歳のころからの親友である「るり子」と「萌」。るり子の結婚式で出会った柿崎という男に不思議な魅力を感じた萌は、その足で彼とホテルに直行。行為が終わった直後にるり子から電話がかかってきたときの一幕。「そうやって僕を品定めでもしているんだろ?女同士のそういうところ理解できないなあ」と言った柿崎に対する萌の心の言葉が、冒頭の引用なのです。もう一度書きます。

理解できるはずがない。してもらいたいとも思わない。女はいつだって、女であるということですでに共犯者だ。

 最初はピンと来なかったんです。なんで共犯者なんだ。でも、柿崎が言った「女同士」の「そういうところ」って例えばどんなところなのかを考え出したらあら不思議。うわっと迫り来る何かとともに、「共犯者」が意味するものを見出した気分になりました。僕らは一生立ち入ることのできないであろう、女性の集団が作るあの雰囲気。男を常にやきもきさせる、女の子の間だけで交わされる意味深な視線。彼女らの人数が少なければ少ないほど、濃密に感じるその秘密の「何か」。知りたい、でも知りたくない。断言しましょう。あれは犯罪です。男子を苦しめる、犯罪なのです。だから「女であるということですでに共犯者」なのです。

完全犯罪

 大学生のころ、僕がとある女の子(Aさん)にアタックをしていた時のお話です。今思えば距離の詰め方が性急だったなあと思うのですが、お付き合いを申し込んだところAさんは少し困惑気味でした。彼女は僕の高校時代の同級生かつ、Aさんと別のコミュニティで仲良くなっていたBさんに相談したらしいのです(後から聞いた話ですが)。

 そこで交わされた会話が、僕の恋愛が成就するか否かの分水嶺になったことは言うまでもないでしょう。一体Bさんは高校時代の僕をどう評し、Aさんにどういう言葉でそれを伝えたのかということを考えると、今でもやきもきします。結局Aさんと僕はお付き合いをすることができたので尋ねてみたのですが、「Bさんは君のことをいい人って言ってたよ」とかなんとか言っていました。今考えれば、あれは絶対に煙に巻くつもりだったに違いない。一体Bさんは僕の何を語ったんだ。ほんとはもっと生々しくて、えげつない会話をしていたに違いない。「あの人はスクールカーストの中では中の中の下」とか「100点満点中の68.7点」とかそういう細かなジャッジがあったに違いない。ああああ。

 ここでいう、僕にとってのAさんとBさんの関係。これが僕が「共犯」だと理解している概念なのです。客観的に見れば単なる相談相手なのですが、これが僕の視点からみるとまったく違う。わかりますか、当時の僕の気持ちが。

 大事なポイントは、AさんにもBさんにも心から感謝をしていて恨みなどはないということ。でも、AさんとBさんをセットにしてこの物語を考えると、僕の心には見まごうことなき恐怖が浮かんでいたということです。彼女らの会話の内容に対する恐怖。それを一生知ることのできない恐怖。この世で僕だけは、決して真実を知ることができないという、恐怖です。

 女性はきっと男には聞き取ることのできない周波数で、男には知覚できない感覚をもって、男には思い描くことのできないイメージ図を使って、男の話をするに違いないのです。それはもう僕からしたら絶対の真実で、AさんとBさんの間で交わされた会話の内容を知った瞬間に僕の男の象徴はもげるに違ない。彼女らの共犯関係は、彼女らが女であるという時点で成り立ち、どちらかが裏切ることは永遠にないのです。男に対しては、彼女らはいとも簡単に完全犯罪をやってのけるのです。逆はありえないでしょう、きっと。男同士で交わされる、女性には教えられない話なんて自分の品を下げる下ネタだけですよ。

おわりに

 唯川恵さんはたった1行ちょっとの文章で、僕にあの頃の言いようもない感情と、色あせた思い出を呼び起こし、こんな意味不明な文章を書かせるに至りました。こんなワンフレーズに出会うために僕らは膨大な書物の大海を掻きわけ、深海に潜るかのごとく活字に埋もれるのでしょう。

 

 

 その他、本を読んで考えたお話。

 

 

肩ごしの恋人 (集英社文庫)

肩ごしの恋人 (集英社文庫)

 
肩ごしの恋人 (集英社文庫)

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