理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

Shadowverseの優勝賞金1億円宣言はe-sports界にとって事件である

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画像:https://twitter.com/shadowverse_jp/status/944904542499385344より

 

 2018年12月に行われるShadowverse/シャドウバースの世界大会の優勝賞金が100万米ドル(1米ドル=110円換算で1億1000万円)であることを開発・運営元のCygamesが発表しました。まだあまり話題になっていない印象なのですが、とてつもないインパクトを秘めていると思います。一人のプレイヤーとして心が震えました。

 世界のe-sports界において大きく後れを取っているシャドウバース、および日本という国が、はるか先を行く先人たちにケンカを売れる最も単純で効果的な方法がこれなのです。超高額の優勝賞金を出すこと。Cygamesは本気でこの世界に殴り込んでいくことを高らかに宣言した形になりました。

 100万米ドル(1億円)がどのぐらいすごいか簡単に比較してみます。シャドウバースよりも2年先にリリースされ、世界中に多くのプレイヤーを抱えるハースストーン。賞金を獲得したプレイヤーの賞金額の累計ランキングが出ています。執筆時点の最終更新は2017年12月17日となっています。

Hearthstone: Heroes of WarCraft Prize Pools & Top Players - eSports Profile :: e-Sports Earnings

 1位はロシアのPavel選手で累計32万米ドル。ハースストーンは世界各地で様々な規模の大会が開かれていて、上のページによると賞金が出ている大会は656個もあるそうです。しかしそのハースストーンのナンバーワンプレイヤーの累計獲得賞金額を、シャドウバースはたった1つの大会で上回ってしまうことになります。事件だと思いませんか。

 アナログのカードゲームとも比較してみましょう。一番の老舗であるMagic The Gathering (MTG)の累計賞金獲得ランキングはこちら。2017年8月23日までのデータとなっています。

TOP 200 ALL-TIME MONEY LEADERS | MAGIC: THE GATHERING

 1位はブラジルのPaulo Vitor Damo da Rosa選手で累計44万米ドル。上のページによると1996年の大会からカウントしているということで、歴史の長さを思い知らされるわけですが、シャドウバースの100万米ドルはMTGのナンバーワンさえも凌駕してしまっています。このランキングで6位にランクインしている日本人のMTGプレイヤーである渡辺雄也選手もこんなツイートを出しています。

 

※もちろん、1個の大会で1億円以上の賞金が出るゲームはいくつかあります。特に本場米国のシューティングゲーム。シャドウバースが世界ナンバーワンになったと早とちりするのはダメです。

 

 1億円の大会が開かれるのは今からちょうど1年後です。賞金額を発表したことで、この1年でシャドウバースにどのようなメリットがもたらされるのか、そして解決すべき課題は何なのか、もう少し掘り下げていきたいと思います。

メリット

・大会の参加者が増える

 1億円がかかる世界大会に出場するためには、日本一決定戦で優勝か準優勝するなど、前哨戦となる大会で上位に入る必要があります。1億円につられたプレイヤーたちは、参加資格が手に入る大会にこぞって応募することになり、各大会の参加者数が増えます。

・大会のレベルが上がる

 他のゲームで好成績を残しているプレイヤーが賞金目当てに参戦してくることが予想されます。シャドウバースはスマホゲームとはいえ40枚のデッキを使って戦うカードゲームです。長い歴史を持つアナログのトレーディングカードプレイヤーも黙ってはいないでしょう。

・アプリのダウンロード数・売り上げが増える

 今までシャドウバースをプレイしてこなかった人が興味を持つということですから、アプリのダウンロード数と売り上げの増加が見込めます。アナログのカードゲームを新たに始める場合、カードを購入し対戦相手を見つけなくてはいけないというハードルがあるのですが、アプリゲームの場合はスマホ1台あれば気軽に始められます。2,3万円ほど課金すれば組みたいデッキは組めるようになるでしょう。希少価値の高いカードを探す手間もありません。

・日本のe-sports界にインパク

 「プロライセンスを持っているプレイヤーにしか賞金を渡せない」みたいなことを言って、いまだに制度作りの段階でもめている日本のe-sports業界。その団体に対して、「あなた方と足並みを揃える気はない」「あなた方とは描いている絵の大きさが違う」というCygamesからのメッセージになったのではないかと思います。プロライセンスを発行するゲームのなかにパズドラとモンストがあるのも背景が透けて見えそうな感じ。仲間割れをしてほしくはないのですが、大きなことをやれる企業が率先して道を拓いていってくれていると捉えれば、日本のe-sports界にとってはプラスとなるのではないでしょうか。

・世界のe-sports界における存在感の発揮

 世界中のゲームを見渡しても高額な賞金を出すゲームに突如名乗りをあげたシャドウバース。今までは世界における存在感はほぼゼロだったわけですが、これで一気に注目度が上がると思います。シャドウバースが今後どのような展開をしてくるのか、世界中のゲーム会社が多少は気にするようになるのではないかと思います。もしかしたら賞金金額をアップするゲームが出てくるかもしれません。そうなれば、世界のe-sportsの発展がより加速していきます。

解決すべき課題

・ゲームバランス

 シャドウバースが一番問題を抱えているのはここだと思います。ネットでここを指摘する声もよく見ます。「上手い人や練習を積んだ人がちゃんと勝てるゲームになっているか」「たまたま運が良かっただけの人が勝ちあがってしまうゲームになっていないか」ということです。

 一因となるのはカード1枚1枚の強さのバランスが悪いこと。強いカードが異常に強い場合、そのカードを引いたら勝ち、引けなかったら負けという単なるくじ引きのようなゲームになってしまいます。リリース初期はこの傾向が強く、多くのプレイヤーがシャドウバースを見限って去っていきました。最近はだいぶ改善されてきて大会も非常に盛り上がるのですが、更なる改善は必須であり、もし必要であればシステムの大幅見直しも視野に入れなくてはいけないと感じています。

 12月末に大型アップデートが予定されているため、そこでゲーム性が大規模に調整され、バランスが整えられるかもしれませんね。

・予選参加資格

 大会の予選に参加できるかどうかは、現在は完全ランダムの抽選方法になっています。強豪プレイヤーが抽選に落ちて、1試合もすることなく1億円への道を閉ざされる可能性が危惧されています。僕も3回応募したことがあるのですが1回は落ちました。

 ここを改善することで、1つ上で述べた問題の解決にもつながります。実力がある人だけが大会に参加できるようにすれば、負けた方も文句は言えません。ゲーム内で一定の成績を収めていることを条件にすれば、大会のレベルをあげることにもつながりますし、アプリそのものへのエンゲージメントも高まります。そのようにできない理由があるのかもしれませんが、検討の余地はあると考えています。

・競技性とソシャゲとしての側面のバランス

 ゲームバランスを改善して競技性を大幅に高めていくと、今度はソーシャルゲームとして取っつきにくくなってしまうという問題が表面化してしまいます。「弱い人は強い人に全く勝てなくなる」というのは競技の面では完全に正しいのですが、ソシャゲとしては必ずしも正しい運営方針ではありません。カードゲームに慣れていないユーザは壁にぶちあたってしまい、あるところから先に進めなくなる人が増えるはずです。

 基本プレイ無料のゲームは多くのユーザを抱えることで、数%の課金ユーザからお金をとるだけでアプリを運営しています。競技性を突き詰めすぎた結果、すそ野が狭まってしまう可能性があります。

・持続性

 2017年度のCygamesの純利益は133億円だったそうです。

参考:Cygamesは黒字133億円、AbemaTVは赤字191億円 サイバーエージェント子会社決算まとめ - ITmedia NEWS

 1個の大会の優勝賞金だけで1億円出すことになったわけですが、この金額は純利益の約1%を占める大金。おそらくどこかからスポンサードを受ける算段がついているのだと思いますが、それにしても高額な金額です。来年度以降も継続的に同規模の大会を開き続けることができるでしょうか。スポンサーに逃げられたらおしまい、という風にはなってほしくありません。この部分はCygamesの経営手腕と交渉力に期待するしかないのでがんばって欲しいところです。 

 

 

 まだ優勝賞金額が発表されただけなのですが、思わず盛り上がってブログを書いてしまいました。更なる続報に期待したいと思います。

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e-sportsとしてのシャドウバースの現状については以前にも書いています。こちらもよかったらぜひ。


 

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