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文学・小説を読む意味とは? 村上春樹の回答

小説を読む意味

 村上春樹さんが読者からの質問に返事を書く期間限定サイト「村上さんのところ」がそそろそろ終わってしまうそうです。全てに目を通していたわけではありませんが面白く読ませて頂いていました。最も印象に残ったものについて書いておこうと思います。

 小説を読むことに意味はあるのか。昔からいろいろな議論が行われてきたテーマかと思います。休み時間に小説を読んでいたとき、社長に「そんなものよりビジネス書を読め」と叱責された人が、村上さんに質問します。社長の態度はいかなるものか、と。

www.welluneednt.com

 

村上さんの答え 

 まずは村上さんの答えを引用して、その内容を深堀りしてみます。この質問サイトではたくさんの質問に答えているので、村上さんが悩みに悩んで考えた返答ではないということは前提に置きつつも、言葉を味わってみようと思います。

小説の優れた点は、読んでいるうちに、「嘘を検証する能力」が身についてくることです。小説というのはもともとが嘘の集積みたいなものですから、長いあいだ小説を読んでいると、何が実のない嘘で、何が実のある嘘であるかを見分ける能力が自然に身についてきます。これはなかなか役に立ちます。実のある嘘には、目に見える真実以上の真実が含まれていますから。

 新鮮な理論だなぁと思いました。小説を書いている作家さんだからこその視点だと思います。小説は嘘の塊である。日々小説を読んでいると、嘘を検証する能力が身につく。少なくとも僕は初めて聞いた理論です。

 しかしよくよく内容を吟味してみると、「実のある嘘」と「実のない嘘」という言葉が気になります。実のある嘘には目に見える真実以上の真実が含まれている、とはどういう意味でしょうか。

 僕なりに解釈を試みるならば、「目に見える真実」以上の真実、つまり物事が起きた原因とそれに伴う結果の裏側に働いた力まですべてを含めた、その出来事の本当の姿を知ることができるということでしょうか。現実世界でそのような裏の裏まで知るということはなかなか難しいものがありますが、小説ならばそれが可能だと。実際は作者の頭のなかまでは覗けないので、厳密なことを言うと違うのかもしれませんが、それはまた話がずれる気がするので今回は割愛。

 ではそれを知ってどうするのかというのが以下の部分。

ビジネス書だって、いい加減な本はいっぱいありますよね。適当なセオリーを都合良く並べただけで、必要な実証がされていないようなビジネス書。小説を読み慣れている人は、そのような調子の良い、底の浅い嘘を直感的に見抜くことができます。そして眉につばをつけます。それができない人は、生煮えのセオリーをそのまま真に受けて、往々にして痛い目にあうことになります。そういうことってよくありますよね。

 小説を読むとビジネス書の嘘を見抜ける。なんだか文学的で面白いと思いました。ここでは「底の浅い嘘」という言葉が使われます。「必要な実証がされていないようなビジネス書」と書いてあるので、ろくに調査もせずにでっち上げた程度の低い嘘というような意味でしょうか。それを感覚的に見抜けるようになると。

 「底の浅い嘘」が「あまり練られていない嘘」という意味だとしたら、そんな嘘は小説を読んでいようと読んでいなかろうと見抜ける、という反論が浮かんできます。ですがそうではないらしい。小説を読んでいない人は、生煮えのセオリーを真に受けて痛い目にあうことになるそうです。

 そして結論。

(結論)小説はすぐには役に立たないけど、長いあいだにじわじわ役に立ってくる。

  これはよく聞かれる結論なので特に突っ込みどころはありません。ビジネス書には、明日使えるテクニックが書いてあったりしますものね。

ゆるい期待値

 僕が思い出した個人的な体験談は、勉強法に関するビジネス書を買った時の話です。売れている商品のようだと目をつけ、パラパラめくってみると何となく面白そうだったので買ったのです。しかし、じっくり読んでみると中身はぺらっぺら。大したことを言っていないのに、適切なのか分からない変なたとえ話を展開してみたり、偉人の言葉を引用してみたりして補強してあるだけのものでした。

 あの本が村上さんのいう「実のない嘘」かどうかはわかりませんが、少なくとも自分が心から信じられない勉強法では成果が出ないだろうなと考えて、その勉強法は実践しませんでした。こういう感覚のことを村上さんが言っているのだとしたら、小説を読んできた経験が活きたことになります。でも、もし小説を読んでこなかったら内容を鵜呑みにしていたか、というとたぶんそんなこともないと思うのです。たぶん。

 結局、何がなんだか分からない世界です。そういう世界を生きていくために、小説を読んでいるといつかは役に立つことがあるんじゃないなぁ程度の、ゆるい期待値を持って、これからも小説を読もうと思いました。 

 

 

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