理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

他人を自分の組織に勧誘するのが怖い

 学部の3年生が次年度から所属する研究室を決める時期です。

研究室見学で胸に引っかかったもの

 うちの学科には、3年生が各研究室を回って、先生や院生から説明を受けるという年中行事があります。僕ら院生側は一塊になってぞろぞろとやってくる学生に対して、自分の研究室がどんなテーマを扱っているかを説明し、研究室の居心地が良いとか先生が優しいとか、学部生にとって魅力的に聞こえるであろうポイントをアピールします。このアピールでは当然耳障りの良いことばかりを言います。ウソは言いませんが、都合の悪いことについてはあまりコメントしません。時間も限られていますし。

 興味がある研究室が見つかったら、学部生は個別に研究室を訪問してさらに情報を得ようとします。興味を持ってくれたのは僕らも嬉しいので、喜んで対応します。志望者が定員枠を超えると選抜になるのですが、志望者が少ない方が僕らは悲しいのでがんばって勧誘します。

 去年は修士の1年生としてこの行事に参加しました。枠を超える後輩がうちの研究室を志望してくれたので、僕としては満足でした。しかし、今年はちょっと胸に引っかかるものがありました。

最後は自分で決めるんだぜ

 先日、うちの研究室と別の研究室で迷っている学部生と話しました。去年は何も考えずに自分の研究室の魅力をどんどんアピールして気持ちをうちに傾けようとしていた気がするのですが、今年はなんだかその子の背中を押すような言葉が出てきません。もしかしたら彼には合わないかもしれないという考えが頭をよぎり、無責任に自分の研究室をプッシュすることが、実は彼の人生を大きく変えてしまうことになるかもしれないという不安にかられました。

 研究室生活が長くなってきて、周りの研究室との違いが歴然と見えるようになってきました。うちの研究室は先生が手厚く指導してくださるおかげで、僕は何度も国際学会に行くことができました。一方で在籍期間の中で一度も国際学会に行かない研究室もあります。当然、僕の研究室の方が成果を求められますし、忙しい時期はハゲそうになります。

 「どっちが良い研究室か」という話ではなくて、研究室によって修士の生活は大きく変わるということです。人それぞれ、好みの問題なのです。そう考えると強いことがなにも言えなくなって「最後は自分で決めるんだぜ」みたいな、ちょっと突き放した言い方になってしまいました。

新卒担当の人事さんのさじ加減

 今年、僕の気持ちが去年とちょっと違うのはきっと、就活を経験したからだと思います。研究室は内々定を出した企業。僕は人事。入社を迷っている新卒に対して、絶対にうちに来いとは軽々しく言えません。だって、彼の人生です。彼の人生を僕の手で歪めてしまったら、その重みに僕は耐えられません。

 僕が就活をしているとき、「最後は自分で決めるんだぜ」というニュアンスの言葉は少なからず言われたような気がします。しかし冷たく突き放されたという印象を抱いた覚えはなくて、人事さんのさじ加減がお上手だったのだろうと今は思います。

 それと同時に、「絶対にうちに来い」といったような強い勧誘もされませんでした。よく覚えているのは、「君がこのフロアにデスクを構えて仕事している様子が目に浮かぶんですよね」と言われたことです。当時は嬉しくなったのですが、今考えると直接誘っているわけではなく、なんだかぼんやりとした表現だなと思います。

他人の人生を背負い込めるか

 僕が出会った人事さんがどうなのは知りませんが、僕が研究室の勧誘に躊躇してしまう理由は、他人の人生を背負い込む勇気がないからだと思います。僕の手で他人の人生を左右してしまうのは非常に怖いです。僕は自分の人生で手一杯。余裕がないのです。

 もちろん、最後に決めるのは決断を下す人自身なので、勧誘する側が気に病む必要はないという考え方もあると思います。しかし少なからず影響を与えてしまう以上、真摯に向き合う必要が僕はあると思うのです。

 採用担当でなくとも、企業の一員として就活生に関わる機会が今後僕にもあるかもしれません。そうなったとき、僕はどのような対応ができるでしょうか。就活生が求めるもの、企業が僕に望むこと、そして自分の本心。それらに上手く折り合いをつけられるでしょうか。 

 結局、今年うちの研究室を志望した学部生は去年よりも減ってしまいました。うちを志望してくれた学生がきちんとうちの魅力を理解してくれていること、そして他の研究室を志望した学生が自分にぴったりの研究室を見つけられたことを、僕は祈ることしかできません。

 

色んなタイプの研究室があるよ、ってことを以前書きました。

 

僕がどんな感じで研究室を選んだかも書きました。

 

 

 

 

 

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