理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

日本のe-sportsの現状 - Shadowverseのプレイヤーとして

 11月11日・12日にかけて行われたShadowverseの大型大会「RAGE」の予選に出場してきました。日本では数少ない、高額の賞金が掛かった大会を実施しているアプリゲームであるShadowverse のプレイヤーとして、また、ゲーム業界の末席でゲームのことを考えている人間として、日本のe-sportsについて書いてみようと思います。(ちなみに予選Day1は突破できました!)

 この文章の軸にしたいのはこちらの4点。

・日本のe-sportsはどのようなレベルにあるのか

・ゲームのプレイヤーたちはそれをどのように捉え、どのように参加しているのか

e-sportsの関係者たちの利害関係はどのようになっているか

・ゲーム業界に属していないビジネスマンや企業は、e-sportsをどのように活用できるか

 e-sportsへの関わり方は大きく分けると「出場する」と「観戦する」に分けられますが、僕はひとりのShadowverseプレイヤーとして、「出会う」という機能も重要視したいと考えています。長い文章になりますが、「1.概要」「2.出場する」「3.観戦する」「4.出会う」という風に章立てをして、上記の軸に沿って書いていきたいと思います。

1.概要

Shadowverseの概要、および大型大会の歴史

 Shadowverseとは、Cygamesが開発・運営を行っているiOS/Android/PC向けのデジタルカードゲームです。ゲームの基本は1対1の対人対戦で、オンラインを介してマッチングした相手とリアルタイムで戦うゲームです。

 配信が開始されたのは2016年6月。2017年11月現在のダウンロード数は1400万を超えます。賞金を懸けた大型の大会の開催を積極的に行っており、今回僕が出場した「RAGE」は6回目の開催でした。

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https://rage-esports.jp/event/ssl-higasi10-day1-repoより、10月の予選の様子

 

 今回の大会の予選は3会場で行われ、参加者の合計は 7000人。倍率は明らかになっていませんが予選への参加資格は応募・抽選によって決められます。予選参加費用は無料で、優勝賞金は400万円、賞金総額は1000万円となっています。前回大会までは18歳以上の参加に限られていましたが、今回からは16歳以上18歳未満も所定のステップを踏めば参加できるようになりました。

 「RAGE」とは、日本でのe-sportsの発展を目指して作られたCyberZという会社が運営している大会の総称です。Shadowverseの他にも格闘ゲームストリートファイター」やサッカーゲームウイニングイレブン」などの大会が開かれています。この中でもShadowverseは最も高額の賞金が掛けられています。

国外ゲームの大会の場合

 Blizzard社が提供するデジタルカードゲームHearthstoneの場合を見てみます。世界展開されているゲームであるため、大型の大会は世界各地で頻繁に行われていて、上位入賞者にはポイントが加算されていきます。多くのポイントを獲得した選手はそのシーズンのチャンピオンを決めるシーズンプレイオフへの出場権が与えられます。その賞金総額は100万ドル(1億円強)となっていて、Shadowverseよりも一ケタ多くなっています。おそらく参加人数も一回り大きくなっているでしょう。

 最も高額の賞金が掛かるタイトルはValve社が提供するストラテジーゲーム「Dota 2」であると言われています。こちらのredbull社の記事には以下の記載があります。

8月12日に終了したThe International 2017には、なんと2,400万ドル(約26億8,880万円)以上というとんでもない賞金総額が用意され、優勝したTeam Liquidは約108万ドル(約12億1,500万円)を獲得した。

 ざっと調べたところShadowverseを大きく上回る額の賞金が掛けられたゲームの大会は見つかりませんでした。確定的に日本一だとは思いませんが、高水準にはあるでしょう。(※参加人数だけ見ればShadowverseよりも多いゲーム大会はたくさんあると思います)しかし上述したように、Shadowverseの賞金総額は欧米の主要タイトルの10分の1から100分の1ぐらいだと概算されます。

 日本におけるe-sportsの大会の賞金額については法律上の制約がかかっていて、それを解説するのはこの文章の本旨ではないため割愛します。この文章は現状を整理したいと思って書いていますので。

 というわけで、日本の現状をざっと概説したところで、ここからはe-sportsへの関わり方を「出場する」「観戦する」「出会う」という切り口から見ていくことにします。

2.出場する

出場者の傾向

 Shadowverseの大会に参加している人の年齢層は18 – 24歳がメインです。データを見たわけではないですが会場を見渡した限り9割はここに当てはまっていると思います。

 e-sportsというと敷居が高そうに感じるかもしれませんが、参加費用が無料であること、サイドイベントを併催したり声優さんを呼んだりして参加しやすい雰囲気づくりがなされていることもあって、ライトな層が比較的多く参加しています。彼らは普段プレイしているゲームのイベントの1つとして、そのゲームの延長線上に自然と大会が存在していると捉えています。ライトな層もかなりいる、ということは認識を誤ってはいけないところだと思います。

 もちろん、コテコテのゲーマーもいますし、賞金稼ぎに来ている人たちもいます。Shadowverseはカードゲームなので、遊戯王magic the gatheringなどのトレーディングカードの経験者が多いのも特徴です。彼らは大会の賞金を目当てに複数のカードゲームを掛け持ちしていて、アプリゲームであるShadowverseにも進出してきています。賞金が魅力的であればあるほどそのゲームに集まってくる賞金稼ぎは大きくなりますから、多額の賞金を出せる体力のあるゲームほど大会を大きく設計することが可能になります。

マーケティングの場として

 e-sportsの大会会場は、それなりに多い人数が一か所に集まる場です。参加者の傾向は比較的絞られているため、狙っている層が合致していれば効率の良い宣伝を行うことができるのではないかと思います。

 大会に来るようなプレイヤーはそのゲームへの熱中度や貢献度が非常に高いのも見逃せないポイントです。そのゲームとのコラボ施策を展開する場合、コンバージョンレートが最も高くなると言っても過言ではないと思います。

 Shadowverseの大会では以下のような宣伝活動が行われているのを見ました。

格安SIM(LinksMate)

 特定のアプリゲームをプレイするときの通信データ量を割引でカウントする料金プランを用意し、ゲームし放題を謳っていました。アプリゲームの大会ならではの非常にダイレクトな繋がりの商品です。会場ではモバイルバッテリーの貸し出しを行うことで出場選手との接点作りを図っていました。

・カップ麺(日清)

 大会の会場に入るときにひとりひとつ手渡されました。まさにダイレクトマーケティング。ゲームが好きな若者とカップ麺の相性は抜群であることを知っているのでしょう。

・マリオオデッセイ(任天堂

 前回の大会のときは、なんと天下の任天堂が宣伝に来ていました。しかも無名タイトルではなく、誰もが知っているはずのマリオのSwitchの新作です。ゲーム好きが集まってくる場ということでターゲティングはばっちりということでの出展だったのでしょうか。

・クレジットカード(三井住友VISAカード

 こちらはかなり離れ業。ゲームのデザインをあしらったクレジットカードです。若者にクレジットカードをアピールするときに、いろいろな方法を模索して試しているのでしょうね。

 

 どの企業もまだまだ手探り状態だと思うのですが、大会に協賛してくれる企業が増えれば大会の規模をもっと大きくすることができ、より多くのプレイヤーが参加してくるようになります。

3.観戦する

e-sportsの弱点

 e-sportsを他のプロスポーツと同等の地位まで引き上げたいのならば、観戦するだけでも面白くなければなりません。ここはe-sportsにとってネックなところだなと考えています。

 サッカーや野球を観戦して楽しんでいる人は多いです。日本シリーズやワールドカップは非常に盛り上がります。しかしプレイしたことのない格闘ゲームの大会はどうでしょうか?コンマ何秒を争う駆け引き、超人的な反射神経を駆使したカウンターなどと言われても、そのすごさが可視化されずプレイしていない人にはすごさが理解できません。

 ですので、e-sportsは大衆向けのショーとしては機能していません。観戦する人はそのゲームのプレイヤーに限られています。オリンピックはショーではないのでe-sportsを正式競技にしたいというムーブメントは筋の悪いものではないと思います。一方で、ゲームをしない人からの理解は永久に得られない恐れがあり、それはどこかで発展の妨げになるのではないかと僕は危惧しています。

スタープレイヤー

 上述の弱点があることはe-sportsの運営側もわかっていることでしょう。Shadowverseが目指している方針の1つに、スタープレイヤーの発掘・育成が挙げられます。

 ゲームの中でどのような奥深い駆け引きが起きているかは、そのゲームに精通している人ではないとわかりません。しかし、そのプレイヤーそのものに興味を持ち、ファンになってもらえれば、楽しんで見てくれるかもしれないというわけです。

 例えばこちらのCM。選手にスポットライトを当てているのが分かると思います。

 試合前にも、気合いの入った選手紹介動画がひとりひとり流れます。そのプレイヤーがどんな人で、これまでの大会でどのようなドラマがあったか等を見せるわけです。e-sportsを観戦していて楽しいものにするという目標に対して、根本的な解決策ではないのですが、プレイヤーにも注目してもらうことは重要なことだと思います。

 スタープレイヤーを作ることは副次的な効果があって、他のコンテンツにも彼らを起用することができます。何かイベントをやるときに有名プレイヤーを呼ぶことで、低コストの客寄せパンダを作ることができます。彼らがSNS上で発信する情報は、多くのプレイヤーにとって貴重な情報源になるので自然とフォロワー数が膨らんでいきます。ネット上のインフルエンサーとして、ゲームの動向を拡散してもらうことができます。

芸能人・声優・コスプレイヤー

 芸能人をe-sportsの会場にゲストとして登場させて、その大会に興味を持ってもらうと同時に、観戦している人たちを楽しませるという工夫もよく行われています。古典的な盛り上げ方法ではありますが、e-sportsの場合はそのゲームをプレイしてくれていないと効果が出ないという意味では特殊です。Shadowverseでは武井壮氏がよく起用されますが、彼はかなりしっかりゲームをプレイしてくれているので、プレイヤーも好意的に受け止めています。

 声優を呼ぶのもよく採られる方法です。最近のゲームはボイスつきのものが多く、ゲームの中のキャラの声を担当している声優さんが出演するとなると、プレイヤーの食いつきは良くなります。ゲームが好きな人はアニメが好きな人も多いので、親和性が高いと言えます。

 コスプレイヤーが登場することも多いです。ゲームのキャラクターというのは特徴的な格好をしていますのでこちらも親和性は高いと言えます。

 逆に、芸能人・声優・コスプレイヤーの側から見てみると、自分が好きでプレイしているゲームをきっかけにして仕事が舞い込むことになるとともに、テレビに出演するのとは全然違った層に対して自分を売り込んでいくことができるでしょう。声優さんにしても、アニメではなくゲームから有名になっていく新たな道が拓かれているのだともいえます。コスプレイヤーも、最近は有名になって活躍の場を広げていっている人を多く見るようになりました。その足掛かりとしてゲームのイベントを活用していくことができます。

 大会を観戦している人たちを楽しませるという目標に対して、大会の運営側と有名になりたい人たちがwin-winの関係を築けているのではないかと思います。

動画配信のプラットフォーム

 野球を観戦するとき、テレビ中継で見るのも楽しいですし、球場に足を運ぶのも楽しいですよね。一定の視聴者数を見込めるのでプロ野球のテレビ中継はゴールデンタイムにも放送できますし、球場はそこそこの入場料を取ることができています。

 e-sportsも、会場に行って観戦するスタイルと、行かないで観戦するスタイルを確立することはできています。観戦するという側面は弱点を抱えている部分ではあるものの、この点はポジティブに捉えることができます。

 会場に行かずにe-sportsの観戦を可能にしているのは、動画配信のプラットフォーマーの存在のおかげです。ゲームをプレイしている様子を一般ユーザが配信する「ゲーム実況」というスタイルは日本にもきちんと根付きました。他の人がゲームをしている様子を見るのを楽しんでいる人は多いです。e-sportsの大会の中継は、見ている分にはゲーム実況動画とあまり違いがありません。

 ゲーム実況にはコメント機能があって、これが独特の空間を作ります。リアルタイムでその動画にコメントを入れることができ、実況しているプレイヤーと、同時に見ている人に語り掛けることができるので、ゲームをプレイしている人と見ている人の間に相互のコミュニケーションが発生します。

 e-sportsの場合、プレイヤーは勝負に集中していますから、コメント機能は主に大会の解説席と観戦している人の間のコミュニケーションを生みます。解説者と同じ目線で大会の様子を見守る人、自分の知り合いを応援する人、大会の出場者のプレイにケチをつける人などが同じ場を共有していくあの空間は、e-sports独特の空間と言えるのではないでしょうか。

 動画配信のプラットフォーマーはこの意味でe-sportsの片翼を担う存在です。日本ではニコニコ動画の不調が報じられ、Shadowverseの大会はOPENREC.tvという新参のプラットフォームで配信が行われています。海外ではTwitchが一大勢力となってゲーム配信を支えています。覇権争いはまだまだ続きそうです。

 動画配信ですから、動画広告を入れることができるのですが、e-sportsの大会の配信中に広告が入ってくる事例はあまり見たことがありません。大会の配信を見ているひとは、大会に出場するひとと同等のセグメンテーションをされているので、ターゲットを絞った広告を撃つことができるはずです。試合と試合の間には準備時間がつきものですから広告は入れやすいはず。今後開拓されてほしい側面です。

4.出会う

ゲームのために作ったSNSアカウント

 アプリゲームはオンライン上で動くものですから、ゲームの中で対戦する人は遠くの見知らぬ誰かである可能性の方が高いです。その特性上、SNSがちょうどよい距離のコミュニケーションを促進しています。

 「ゲーム内のランキングで上位にいるあのひとのTwitterアカウントをフォローすることで、その人が発信する情報をキャッチアップする」「身近にこのゲームをプレイしている人はいないので、ゲームのことに関して話せる知り合いを求めて」こんなようなニーズから、特定のゲーム専用のアカウントを持っている人は多いです。

 e-sportsに目線を移します。とっておきの戦術のアイディアをひらめいたとき、それをSNSで発信したら大勢のプレイヤーにバレてしまいます。トレーディングカードでもよく見る光景ですが、自分と目指すところを同じとするプレイヤーに声をかけてチームを結成し、そのメンバーの中でとっておきの作戦に磨きをかけるという動きがよく見られます。Twitterは複数人で話し合うためのツールではないので、LINEのようなものへと媒体を変え、より親密なコミュニケーションをとるようになります。

e-sportsという巨大なオフ会の会場

 ゲーム専用アカウントでのコミュニケーションは、親密なものに発展する可能性があるのですが、あくまでオンライン上の接触です。相手の年齢や顔、本名を知らないのは当たり前で、性別が分からなくても気にされないこともあります。この辺はもう、ネットに慣れた方には当たり前ですね。しかし目的を同じとする彼らが必ず集まる場所があります。それが大会の会場です。

 大型の大会の後はこのようなツイートをよく目にすることがあります。「あの人は(ネット上では)変なひとだとだと思っていたけど、(会ってみたら)ものすごくさわやかな好青年だった」。彼らはお互いへ認識を改め、そこで仲たがいも多少はあるのかもしれませんが、基本的には親交をより深めてお互いの生活圏へと帰っていきます。ネットだけでのつながりが、リアルな繋がりへと変貌する場所。それがe-sportsの会場だったりするのです。

 もちろん、オンライン上の関わりが全くなかったとしても、その場で友好関係が生まれることだってあります。特にe-sportsは相手との真剣勝負をするので単なるオフ会よりも相手と深くかかわります。負けた相手を憎むことも当然あるのですが。

 また、自分と同じぐらいこのゲームが好きなひとがこんなにいるんだと、身をもって実感する場所でもあります。このゲームをまだまだ続けようと、エンゲージメントを高める役割もあります。

 こういう側面をビジネスにするのは難しいのかもしれません。しかし、e-sportsの会場は殺伐とした戦いの場であると同時に、多くの出会いが生まれる場所であることを、そしてその出会い方はいささか特殊であることを認識しておいてほしいと思います。

終わりに

 以上、僕が普段から経験していることから、日本でのe-sportsの現状と、主要な関係者たちを俯瞰してみました。

 「e-sportsはゲームが生き残るただ一つの道」だとは全く思いませんが、「ゲームにスポットが当たる良い機会」だとは思います。途中で少し書きましたが、賞金が大きくなるほど参加人数は当然増え、巻き込まれる人の数がさらに増えていきます。

 僕はゲームが1つの文化として、どんな年代の人にも認められる社会が来るといいなと考えています。e-sportsのムーブメントをきっかけに、ゲームに関わる人生を歩むことになる人が増えれば、その一助になると思っています。これからの発展に期待しています。

 

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