理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

グレイテスト・ショーマン感想/ミュージカルを見るためだけの映画

最初はネタバレなしです。

 

 

 映画「グレイテスト・ショーマン」を見に行ってきました。2018年2月26日時点で、日本での興行成績は2週連続のナンバーワン。僕の周りの人の中にも、面白かったという人が数人いたのでどんなものかと気になったので。19世紀に活躍した興行師P.T.バーナムの成功を描くミュージカル映画です。

 

 僕の目にどのように映ったかを端的に表現するならば、「ミュージカルシーンをひたすらにカッコよく見せるため、それ以外の部分を割り切っている映画」となります。

 サーカスが舞台なのでミュージカルシーンはとにかく演出が派手でした。ただ踊るだけではなく、いろいろな舞台装置をからめた演出は見ていて「すごい…」以外の感想が出てきませんでした。楽曲の種類がすごく多いおかげで見ていて飽きず、それでいて1つ1つの曲が素晴らしかったです。お腹いっぱいになれる映画でした。

 一方で、ミュージカル以外の部分はお世辞にも素晴らしいとは言えなかったです。特に僕のような斜に構えた見方をする人間にとっては。しかし、そんなことは些細なことだとねじ伏せるだけの腕力のある映画でした。その結果として素晴らしい興行成績がついてきているのではないかと思いました。

 

 

 

 

 

以降はネタバレありです。

 

 

 

 

 

とにかくシンプルなストーリー

 開始15分ぐらいで物語の大枠が見えてきます。その段階で僕の頭の中には、とってもベタな起承転結が思い浮かびました。どのように期待を裏切ってくれるのか楽しみに見ていたのですが、結局その起承転結の通りになってしまいました。そのぐらい、言ってしまえば面白味のないストーリーでした。

 この映画、誰も予想外の動きをしません。キャラ通りの動きをして終わり。実話に基づいているとはいえ、実在のP.T.バーナムがやったことに少し脚色を加えているわけですから、もう少し裏表のある人物を登場させてもよかったはずなのに。物語をドラマティックに見せようとする意思があまり感じられないのです。

 敵は敵で、味方は味方。新聞記者のベネットや妻チャリティの両親は最初から最後まで立ち位置に変化がない。ニューヨークの地元の人々も石を投げ続けるだけ。物語は敵役の動きによって奥行きが出るものだと僕は思っているのですが、敵役が薄っぺらいので厚みがありません。

 メインキャラクターの心の機微が見えにくい映画でもありました。「あなたと一緒になりたいけどそれは無理なの」と歌っていたアンの想いはいつどのように変わったのでしょうか。成り上がりだと仲間外れにされて嫌になってしまったバレエに対する長女キャロラインの想いはなぜ変化したのでしょうか。同じような幼少期を過ごしたことでリンドとバーナムには通じ合うものがあったはずなのに、そこは結局掘られぬままケンカ別れで終わってしまいました。

 伏線にできそうなアイテムはそこかしこに転がっているのに、わざと見えていないふりをしているかの如く無視されていきます。逆に徹底的。物語を物語らしく見せる気がそもそもないのかなと思いました。

メッセージの中途半端さ

 物語の序盤で、身体的に特徴のある人たちを集めてバーナムはサーカスを興します。ひとりひとりの個性を輝かせようじゃないかというメッセージが宣言されます。いまの時代に合った素敵なテーマです。しかしそれをずっと貫いていく映画ではありませんでした。

 中盤は家族の愛、家族の大切さというテーマが示されます。自分は成功や報酬を追い求めすぎたと後悔したバーナムは、家族の元へとひた走ります。そこに、前述の「個性」の話はありません。ひたすら、家族はやっぱり大事だよねというポイントに終始します。

 最後のシーンはバーナムの残した名言で締めくくられます。これがまた「個性」とも「家族」とも関係のないメッセージ。「THE NOBLEST ART IS THAT OF MAKING OTHERS HAPPY.」。芸術とは、エンターテインメントとはどういうものかを表した言葉でした。もちろん映画の中では表現されていたテーマではあるのですが、強く主張されるテーマではなかったはずです。最後を締めるのはそっちの方向で良かったんだっけ?という疑問が残りました。

取りつく島もない映画

 上でごちゃごちゃと文句をつけましたが、とにかくミュージカルを目に焼き付けよという映画だったのだなというふうに消化しています。ミュージカルに関係ない部分はノイズであり、ひたすらに削ぎ落としていくストイックさを感じました。そしてその戦略は見事に当たっているのだと思います。

 この映画の2時間は歌とダンスのための2時間。日常の嫌なことは忘れて、圧倒されて帰ってほしいという心意気を感じました。事実見ている間はとても楽しかったですし、もっといろんな曲を見ていたかったなと思いました。ただただぼうーっと眺めるために、2回目を見に行ってもいいかもと思ったぐらいです。

 ラ・ラ・ランドはストーリーを分析して語る余地がありました。ネットでもいろんな人がそれぞれの持論をぶつけていたものです。一方グレイテストショーマンは、語りたい人種の人間が語りたくなるようなことを意図的に排除した、取り付く島もない映画と評することはできないでしょうか。語る余地がないのでネットが荒れず、変に悪い評判が流れることがありません。一方ポリコレ問題にはかなり配慮がなされている映画でした。それも、無駄なツッコミをさせないためのバリアなのかもしれません。見たい人が気持ちよく見て帰ってこられる映画。そう考えると素晴らしい映画を作ったものです。ハリウッドはやはり懐が深いなと思いました。

 「これで数字をとれちゃうんだからちょろいもんだよなあ」なんてぼやいてみたくもなります。

 

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グレイテスト・ショーマン(サウンドトラック)

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