理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

Shadowverseのプレリリース機能がもたらす影響について

 2019年9月7日にシャドウバースが発表した新カードパックの「プレリリース」というシステムがとても面白くて、Cygamesは課金関係に本当に強い会社だなと思ったので書いてみます。 

 

目次

0.プレリリースでどんなことが起こるか(スキップ可)

1.競技者に与える影響

2.ベータテスト

3.カードゲームの原体験

4.2回のお祭りと課金施策

 

0.プレリリースでどんなことが起こるか(スキップ可)

 シャドウバースを普段プレイしている方には当たり前のことを書きますので飛ばしてください。

 シャドウバースでは3か月に一度、新カードパックがリリースされます。対戦のメインルールは「直近で発売された5つのカードパックに封入されているカードを使う」というものなので、1年前に発売されたカードが引退し、それと同時に新規カードが登場することで、新環境への移行が行われます。

 プレリリースでは新環境が早めに体験できる機能です。 

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https://twitter.com/shadowverse_jp/status/1170292341174718464より

 

 課金をすることで最大100パック分の新カードパックを先んじて手に入れることができ、フレンドとのルームマッチと、CPU対戦のみに使用できます。「100パック」というのがプレリリースというシステムの一番の肝です。ここを詳しく説明していきます。

 新カードパックには97枚の新カードが封入されます。1パックは8枚入りなので、課金することで800枚の新カードを購入することができます。

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注1:1パック8枚のうち1枚はシルバー以上確定枠なので、実際はシルバーの期待値はもう少し高くブロンズの期待値は低いですが、シルバーとブロンズは間違いなく全部揃うので無視できます。

注2:スキン付きレジェンドレアカードが2枚封入されるのですが、新カードではなく、封入率も低いので無視できます。

 表を見てわかる通り、18種あるレジェンドレアカードは12枚ぐらいしか手に入らないので、各1枚が手に入るか入らない程度の期待値しかありません。シャドバにおけるレジェンドは、「デッキに1枚入れておけば試合をひっくり返してくれる切り札的カード」ではなく、「試合中に必ず1枚は引きたいメインシステムカード」であることが多いです。最大枚数(3枚)積み込まれることがほとんどです。

 何が言いたいかというと、プレリリース期間は組みたいデッキが完璧には組めないシステムなのです。これを前提に続けていきます。

1.競技者に与える影響

 シャドバの競技シーンの中心的存在は3か月に1度開かれているRAGEという大会です。優勝賞金400万円+優勝賞金1億円をかけた世界大会への出場権をかけた大型大会です。競技プレイヤーはほぼ全員がこの大会で勝つことを念頭にシャドバをプレイしています。

 焦点になるのはスケジュールです。9/19(木)~9/25(水)の7日間がプレリリース期間、9/26(木)~10/4(金)の9日間がRAGEの準備期間で、10/5(土)がRAGEの本番です。プレリリース期間に新環境を体験できるということは、倍近い時間的アドバンテージがあります。

 カードゲームで遊んだことがある方はわかると思いますが、大会の準備はとても大変です。RAGEに出場するには自分が使うデッキを2種決める必要があります。

アーキタイプの比較検討・決定

②マッチアップごとの試合展開の理解度向上

③細かい枚数調整

④毎ターン最適解のプレイを行うための練習

 プレリリースという機能の概要を聞いたとき、「お金で時間を買う」という意味で競技者のためのシステムなのかなと思いました。ただ、0で書いたように満足にデッキが組めないので、③と④までは行えません。デッキの中にノイズがあると意味がないのです。

 カードが完全に揃うことが大事なので、友達と協力しようがアカウントを増やそうが無意味です。いや、正確に言うと確率の話ですので、何十万円とつぎ込めば、目当てのレジェンドレアカードが3枚揃うことがあるかもしれません。

 しかし、それをやるぐらいなら印刷した紙のカード(プロキシと呼ばれます)で試してみればよいだけの話です。お金も時間もかかりません。今もそのようにして新カードパック発売前にデッキを研究している人はたくさんいます。デジタルカードゲームならではのランダム要素はサイコロを転がせばよいだけの話です。

2.ベータテスト

 プレリリースの告知ツイートには、「ユーザにベータテストをやらせるのか」という趣旨のコメントがたくさんついています。

 進行が止まる、挙動がおかしいなどのプログラム的な不具合の発見には貢献すると思います。長い歴史の中で数枚はそのようなカードはありましたが、最近はあまりありません。シャドウバースのデバッグチームの仕事を馬鹿にしているようで、この考え方はあまり好きではありません。(無意味ではないと思っています)

 「強すぎるカードがあればリリース前に能力を調整する気だな」という意見もありますが、シャドバのカードの能力調整はランクマッチの勝率と使用率をもとに決めていて、ランクマッチが開かれないプレリリースというシステムでは基準がありません。基準が不明瞭な能力調整は運営の不信につながります。

 こちらでもいえることですが、40枚のデッキがしっかりと組みあがったときにどのような強さを発揮するかが大事なのであって、レジェンドレアカードがほとんど揃わないような環境でのバトルの勝敗に基づいてカードの能力を調整するなんてことをCygamesはしないと思っています。

3.カードゲームの原体験

 プレリリースの機能が最初に発表された生放送番組で、プロデューサーの木村さんが実装の意図を語っていました。「自分はアナログのカードゲームをプレイしていた。新カードパックの発売日に、購入したパックにたまたま封入されていた新カードを使って友達同士とわいわい楽しみながら対戦するのが好きだった。デジタルカードゲームではカードの生成という機能があり、初日からカードがすべて揃うのでそのような体験ができない。プレリリースによってそういう楽しみ方を提供したい(意訳)」というようなことを仰っていました。

 はじめこのお話を聞いたときは、「そんなの建前に決まっている。競技者のための機能だ」と思ったのですが、1で書いた通りデッキの調整のために最適化された機能ではないので、あながちウソでもないのかもと思い始めました。50パックに制限するとレジェンドがほとんど出ないので、100パックというのも妥当なのかなと。

 Cygamesが表立って使っているロジックなので、さすがに隙はないと思います。ここを攻撃するのは分が悪いですね。

4.2回のお祭りと課金施策

 アプリゲームという観点で見ると、シャドバが一番盛り上がるのが新カードパックの発売日です。アナログのカードゲームでも同じですが、開封式というのは何が当たるかドキドキワクワクして楽しいものです。Twitterには何が何枚当たったというツイートが溢れ、お祭りのような雰囲気になります。

 プレリリースはそのお祭りの先取りになります。Youtubeに動画を投稿する人、実況サイトで実況プレイ配信を行う人、競技プレイヤーは間違いなく課金をして、開封結果をネットに公開するでしょう。

 アプリゲームの課金率は1%-3%と言われています。実際はごく一部の人たちが課金して盛り上がっている状況でも、インフルエンサーの持つ影響力は大きいため、あたかも1回目の祭りがおこなわれているように錯覚してしまうのではないかと思います。それを見ている人たちも、この祭りに参加したい!という気分になって、課金したくなるかもしれません。

 新カードパックの発売日はCygamesにとってもお祭りです。というか、ここしか課金のタイミングがないので、祭りというほど楽しいものではなく、生死を書けた決闘の場とでも言った方が適切でしょうか。

 アプリに課金する人が月あたりいくら課金するかを意味するARPPU(Average Revenue Per Paid User)という指標があります。アプリゲームの場合は3000円ぐらいが標準と言われていますが、プレリリースのお祭りに参加するための課金額は2万円となります。初回となる今月のARPPUは跳ね上がること間違いなしなのではないでしょうか。

 そもそも、シャドウバースはゲーム中で資産をたくさん配ってくれる設計になっているため、毎日コツコツプレイしているほど課金が不要になります。ヘビーユーザーほど課金がいらなくなるというのは、運営側にとっては致命的です。通常はたくさん遊んでくれている人から少しずつお金をもらってアプリを運営していくのに、全くの真逆の状態です。

 プレリリースはヘビーユーザーからお金をがっつり取れる機能として期待されているものと思います。この機能を実装するには今までよりも早く新カードを作らないといけません。開発側も必死でしょう。どのような結果をもたらすのか、プレイヤーとしても、ゲーム開発者としても楽しみです。

 

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 そのほか、シャドバ関連のお話。

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