理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

ARの覇権争いで日本のコンテンツよ輝け

 次に来るのはARかVRか。ゲーム業界に身を置く一人として、この論争はいつも興味深く眺めています。FacebookがARに参入することを表明したことで、ARの覇権争いが先に本格化することが予想されます。その中で、日本がどのようにかかわっていくべきか考えてみました。

ARという舞台に役者が揃ってきた

 2017年4月18日、Facebookによる開発者向けカンファレンスF8にて、マークザッカーバーグ氏本人がプレゼンを行い、ARのプラットフォーマーを目指す戦略が高らかに宣言されました。プレゼンには20分ほどの時間がかけられ、Facebookの本気が伝わってくる内容でした。

 FacebookとARという話題は、競合SNSであるスナップチャットの存在を無視して語ることはできません(参考:Forbes JAPANTechCrunch Japan)。スナップチャットは自社をカメラの企業だと位置づけており、ARカメラは彼らのアイデンティティの根幹を成すものです。Facebookはその領域でスナップチャットに優位を取ることで、新興勢力を叩き潰そうという構えなのでしょう。

 ARのハードウェア面の動きも見られます。GoogleのAR技術であるTangoを搭載したZenfone ARが発売されたり(Engadget 日本版)、AppleがARデバイスを開発中とのうわさが流れたり(ITpro)と、ARという舞台に役者が揃ってきました。

 ARが次の時代のメインストリームになるかどうかは別にして、大きなお金がこの分野で動くことは確実になったと言ってよいでしょう。しかし悲しいことに、この舞台に躍り出るこのできる日本企業はありません。国内ではLINEが頑張るかもしれませんが、グローバルな技術開発の覇権争いには踏み込めないでしょう。(だからこそSONYのVRには頑張ってほしいですね)

 もったいないことだと思います。なぜなら、日本にはARと相性の良いコンテンツ(IP)がたくさんあるからです。

先行するARのエンターテインメント応用

 ARの普及段階を考えると、最初に「ARのエンターテインメント応用」が進み、「ARの実用的な応用」が遅れてやってくることになると思います。

 服をARで自分に重ねて疑似試着をしたり(VR Inside)、家具をAR上で部屋に置いてみてイメージしやすくしたり(日流ウェブ)といったものは実現していますが、まだまだ違和感が残るのであくまで参考程度に利用するクオリティ。ARで手術を補佐したり(日刊工業新聞 電子版)、工場のオペレーションを補佐したり(TechFactory)といった分野はまだまだ研究段階。こちらはゴーグル型デバイスが必要で、かつ正確性・安全性が問われる分野なので実現はまだ先になりそうです。

 一方、ARのエンターテインメント応用はすでに実用化と大衆への浸透が進んでいます。言うまでもなくポケモンGOを筆頭とするゲーム、SNOWを筆頭とするカメラはほとんどの人がどういうものかを理解してくれる段階にまで普及しました。

 エンターテインメント応用でカギを握るのはずばりコンテンツとアイディアだと思います。それはポケモンGOのヒットを見れば明らかですし、スナップチャットはポケモンGOがヒットする以前に、ハローキティとコラボして話題を集めていました(Daily Mail Online)。空間にデジタルオブジェクトを置くことや、カメラで顔を認識してフィルタをかけることに大きな技術的な差は生まれにくいからです。あっと驚くコラボレーション。覇権争いで競合をリードするためにはそれが必要だと思います。有名なコンテンツとコラボすればネットでバズる話題性ととっつきやすさを獲得できます。(ポケモンGOGoogle MapとIngressで蓄積した膨大なデータをもとにゲームを作っているのでおいそれと真似できるものではなかったりしますが)

 というわけで、日本のコンテンツホルダーにとっては、ARプラットフォームの覇権争いというのは1つの勝負どころなのではないでしょうか。

世界に挑戦できるプラットフォーム

 日本生まれのコンテンツがグローバルにお金をかけて勝負を挑むプラットフォームと言うと、ゲームと映画が思い浮かびます。

 ゲームについては、日本でだけ流行っているタイトルもありますが、世界中でヒットを飛ばしてきたシリーズも多々あって、良い勝負ができていると思います。一方、ハリウッド映画化された日本のコンテンツは、ドラゴンボールの印象が強すぎるのかもしれませんが、ことごとく爆死している気がします。アメコミヒーローやディズニーキャラクターの映画が世界でしっかりとした興行成績を挙げているのとは対照的です。

 アメコミと比べると、日本のコンテンツは現実離れした世界を描くことが多く、実写がメインのハリウッド映画の世界とは相性が悪いのかもしれません。この先ワンピースやNARUTOが実写映画化されたとして、全世界で大ヒットするイメージはあまり持てません。(とは言いつつ、ディズニーの実写映画も上手くいっているので、プラットフォーマーとの地理的距離や日本的コンテキストなど問題は別にあるのかもしれませんが)

 ではゲーム・映画と並べてみて、ARというプラットフォームはどうでしょうか。AR技術を使い、現実世界に対して現実世界に近いものをオーバーレイさせても面白味が出ません。せっかくARを使って遊ぶのならば、現実離れしたものを重ねることで現実が拡張され面白さが出るのではないでしょうか。

 例えばF8のプレゼンで、コーヒーカップをカメラでとらえるとそこが防衛軍の基地となり、襲い来る敵から自分の体を使って守るというゲームが紹介されました。ここで敵の姿に注目してみると、それはリアルな戦闘機ではなくちょっと面白味のあるロボットになっていて、現実離れしているのです。この辺に僕は日本発のコンテンツの勝機を感じます。

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Facebook F8 2017 - YouTubeより

日本のコンテンツよ存在感を示せ

 最近、中国の技術発展がすさまじく、日本はすでに技術的な優位性を失っているとの論調が多く聞こえます。人口およびかけているお金に差がありすぎるので、やむなしでしょう。ですが、中国発で世界に通用しているコンテンツというのは聞いたことがありません(三国志が好きなのはたぶん日本人だけ)。ARという大きなお金が流れこんでくる分野で、相性の良いコンテンツを多数有する日本は、必ずや存在感を示せると思うのです。

 AR自体がこけるかもしれません。それでも良いと思います。コンテンツに傷はつきません。むしろ、Facebookという巨大企業が自社の命運をかけて放つ次の矢の先端に、日本のコンテンツが載っている。これが実現すればデカイと思います。日本のクリエイターは賃金的な面で過小評価されていると言われていますが、外国資本の流入によって一気に流れが変わるかも、というのは夢物語すぎるでしょうか。

 ポケモンGOGoogleとの協業だという事実はすでに知れ渡っています。もうすでに声がかかっているコンテンツがあったりするのかもしれません。目が離せないですね。

 

 

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