理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

アズールレーンはライトユーザをイライラさせないから流行っていると思った

 今更ながらアズールレーンにハマってしまいました。話題になっていたのでちょっと眺めてみようと思いダウンロードしたがきっかけなのですが、こんなに夢中になるとは。クラッシュロワイヤル、シャドウバース、ドラクエライバルズ、スプラトゥーン2などの対戦ゲームを最近ずっとプレイしていたので自分自身とても驚きました。

 中国の会社が開発していることもあって、アズールレーンゲームデザインは既存の国産ソーシャルゲームと比べて少し独特な作りになっています。自分の勉強も兼ねて、なぜこのゲームが流行ったのだろうかというお題で文章を書いていきたいと思います。

 ガチャのSSR排出率が7%と高い設定になっていることがこちらのインタビュー記事で話題になっていましたが、それが流行っている直接の原因ではないと思います。ガチャを当たりやすくするだけで人気が出るほどアプリゲームは甘くないはずです。「ゲーム全体を通してライトユーザをイライラさせないように徹底していることがヒットの秘訣」というのが僕の仮説です。以下の6つの観点から根拠を書いていきます。①SSRキャラ ②装備 ③ランキング ④スタミナ ⑤シューティング ⑥周回プレイ

 自分がハマっているゲームのことを書くのでこのゲームの素晴らしさばかりを書いていくのですが、あくまでライトユーザにとって親切な作りになっていますよという趣旨の話をします。ヘビーユーザから見たゲーム性はまた別の話です。

 この仮説を抱くようになったきっかけの1つにアズールレーン公式 (@azurlane_staff) | Twitterに寄せられるリプライの質があります。一般的にソーシャルゲームの公式アカウントには罵詈雑言ばかりが飛んでくるのですが、この公式Twitterには感謝や労いのコメントばかりが寄せられています。面白いですよね。

⓪前提:アズールレーンとは

 概要を簡単に。アズールレーンは中国の会社が開発・運営を行っているソーシャルゲームです。中国国内の運営を担っているのはビリビリ動画という中国版ニコニコ動画のようなサービスを作っている会社。Yostar, Inc.という日本の会社が日本でのローカライズと運営権利を認められ、日本版が遊べるようになっています。

 ゲームは横スクロールのシューティングゲーム第二次世界大戦のときに実際に戦った戦艦や空母を擬人化させ、史実を下敷きにしながらもゲーム独自の世界観で物語を構築しています。

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SSRキャラの扱いについて

 冒頭でも書きましたが、ガチャの中で一番レアリティが高いクラスであるSSRの排出率が7%に設定されていることが話題になりました。他のゲームのガチャにおいて、SSRに相当するアイテムの排出率は0.1%以下のオーダーであることが多いです。7%は破格の数字です。実際自分が遊んでいても、よく当たるなあという印象は持ちます。

 念のため補足しておきますと、SSRの中でもキャラが10体ほどいるので、1種類のSSRキャラに狙いを絞れば単純計算で確率は10分の1程度になります。それでも十分高い方ですが。

 ただ、アズールレーンのガチャ設計が他のゲームと違うのは確率だけではありません。トータルの設計が独特で、かつ全体として調和のとれたものになっています。

 SSRキャラは当然他のキャラに比べて非常に強いです。しかし、始めたばかりのライトユーザが序盤で「SSRキャラが欲しくて欲しくてたまらない状態」には陥らない難易度設計になっています。キャラの個性よりもパラメータの高さが重要な設計になっているので、そこそこのキャラを手に入れたらあとはこつこつレベルを上げて数値を高くしていけば、序盤は苦労せずに進める設計になっています。「このキャラがいないと勝てない」というステージは基本的にはなくて、勝てないステージにぶつかったらレベルを上げるというのが基本のゲームサイクルになります。

 逆にSSRキャラを使用するとスタミナ消費が大きいので、スタミナの保有量や入手量が少ない序盤ではデメリットになるぐらいです。面白い設計だなと思います。

 もう1つのポイントとして、ガチャチケットが通常プレイで手に入るというのも注目すべきところです。こまめに遊んでいれば1日でガチャを1, 2回引けるぐらいのチケットがコンスタントに集まるようになっています。

 ライトユーザのゲーム体験として、そこそこのレアリティのキャラを使って序盤を攻略しているうちに、高いSSR排出率と豊富に手に入るガチャチケットによって徐々に資産が集まってくることになります。序盤を抜けるとSSRキャラが欲しくなってくるのですが、欲しくなってきたときにほどよくキャラが手元に揃っている感じになります。

 「このキャラがいないと勝てないステージがある」「もっと強くなるためにはSSRキャラが絶対に必要」というような難易度設計のゲームでは、SSRを引けなかったときにユーザは非常にストレスを感じてしまいます。これを排した結果、アズールレーンではガチャがライトユーザの不満の対象になりにくくなっています。

 上記の理由からリセマラが必要ないゲームと評されることが多いです。普通にゲームを始めてコツコツ毎日プレイしている方がマシで、リセマラする時間はもったいないという言い方がよくされます。

②キャラではなく装備がエンドコンテンツになっている

 SSRキャラが簡単に手に入ってしまうと、すべてのプレイヤーが持っている資産が均質化してしまい、ライトユーザに対してヘビーユーザの優位性が出ません。アズールレーンでは、主砲や副砲、魚雷や爆撃機などの装備をキャラに装着して戦います。その装備がヘビーユーザのためのエンドコンテンツになっています。

 装備にもそれぞれレアリティがあり、最もレアリティの高い装備は手に入れるのはかなり大変です。同じステージを百周以上しないと手に入らないものもあります。その分リアリティが高いほど装備は非常に強力になります。キャラのレベルは比較的簡単にカンストするので、その後はいかに強い武器を作るかの勝負に移行していきます。

 キャラは1体手に入れば最低限OKなのですが、装備は装着したいキャラの分だけ作る必要があるので、ものによっては複数必要になります。欲しいキャラの大半を手に入れたヘビーユーザが最後に求めるエンドコンテンツは、このゲームの場合装備になっています。

 しかしライトユーザには装備の重要さをあえて意識させないようになっています。序盤はとにかくキャラが欲しくなりますし、上に書いたようにSSRキャラも入手しやすいのでその欲求は叶えられやすいのです。キャラは可愛い女の子ですが装備はかなり味気ない見た目なのでライトユーザが欲しがるのは間違いなくキャラの方。キャラで釣られて、装備で沼にハマる。そんなサイクルになっています。

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③ランキングはあるが限定アイテムがない

 ランキング機能はほとんどのソーシャルゲームに搭載されているでしょう。ランキング上位に入ると特別な報酬をプレゼントすることでユーザ間の競争を煽り、課金収入に繋げていく重要な機能です。

 アズールレーンにもランキング機能はあり、上位入賞者にはプレゼントがあるのですが、もらえるアイテムは限定品ではありません。ヘビーユーザであっても上位入賞を目指さない人がいますし、もちろんライトユーザも上位入賞しなくてはならないという義務感をほとんど感じません。「ランキングに頑張って挑戦しよう」というふうに煽られることもないです。始めたばかりのライトユーザはランキングの上位に入れないことぐらい百も承知なのですが、限定アイテムがもらえないとなると蚊帳の外にいるような感覚を味わいストレスを感じるもの。このゲームではそれがありません。

 ランキングに挑戦するときはスタミナを使用せず、一定時間で回復する全ユーザ平等のチケットを使うのも面白いところ。ランキング上位に入るためにスタミナに課金することができず、純粋に自分の艦隊を強くしていくしかありません。中級者が頑張って課金して上級者に勝つということがシステム上起きないので、ユーザが疲弊しません。

④スタミナシステムは普通だがバッファがある

 スタミナの上限、回復量、消費量あたりは特筆すべきことはないと思います。上限に対して消費量が少ないかなと思うことはありますが、世の中にはたくさんゲームがあるので比較が難しいところです。

 面白いなと思ったのは、時間で回復するスタミナについては貯蔵プールが別にあって、一時保管のバッファとして機能するところです。(他のゲームにもあるのかもしれませんが僕は初めてみました)スタミナがマンタンになっていると、早く消費しなければと焦りを感じるものですが、貯蔵庫が別にあるのでそのような焦燥感を感じる状況に追い込まれにくくなっています。イライラを減らす良い機能だと思います。

 スタミナに相当する「燃料」というリソースは、ほぼステージに挑戦するためだけに使われます。その他の要素と用途が被っているゲームもありますが、きちんと分けられています。

⑤パラメータで戦うシューティングゲーム

 世の中には、敵弾に1回でも当たればゲームオーバーになってしまう厳しいルールのシューティングゲームもありますが、アズールレーンはそうではありません。弾に当たっても大丈夫。集中力は要求されません。電車の中でも気軽にできます。

 重要なところは、プレイヤースキルを要求されているように見えにくいところです。勝てないステージに当たったときは、パラメータを高くすれば勝てます。逆に数値が足りなければどんなにシューティングがうまくても勝てないようになっています。それがライトユーザにも直観的に分かるので、「負けたのは自分が下手だったから」と感じにくくなっていて、負けたとしてもストレスがたまりません。「レベル上げを頑張ろう」と思えます。

 パラメータが十分高ければ、敵の弾幕に突っ込んでいってこちらの砲撃で真っ向からねじ伏せることもできます。既存のシューティングゲームではあまり味わえない爽快なゲーム体験だなと思いました。

 オートモードも実装されているため、余裕で勝てるステージでわざわざ操作しなくてはいけないというストレスもありません。

 かといってゲームシステムが単純すぎるというわけではなく、キャラ、装備、編成によって操作感はけっこう異なってくるので、自分好みの艦隊を作り上げるはなかなか楽しいです。

⑥番外:お金ではなく時間をささげる周回プレイ

 ライトユーザのことだけ書くと冒頭で宣言しましたが、ここに触れないのは本質を分かっていないと思われそうなので最後に。ある程度ゲームを進めたユーザが取り組むことになる周回プレイについてです。

 SSRキャラの中にはガチャでは入手できず、ステージをクリアしたときに低確率で手に入るキャラがいくつか用意されています(加賀と赤城が代表格)。手に入れるためには同じステージを延々と「周回」しなければなりません。

 SSRキャラだけでなく、前述のレアリティの高い装備、イベント用の特別ステージも周回を余儀なくされる設定になることが多いです。周回には時間とスタミナが必要です。エンドコンテンツなのでこういう要素がないとそもそもやることがなくなってしまうのですが、スタミナには課金ができるため、ガチャでお金を取らない分こちらでお金を取りに来ているという見方もできます。時間も同時に使うことになるため、お金だけ使うガチャの方がまだマシだという人もいます。 

 一般的に基本プレイ無料のゲームの課金ユーザの割合は数%のオーダーです。ヘビーユーザからしかお金は獲れません。彼らにどうやって課金してもらうかを考えたときに、アズールレーンでは周回がターゲットになっている。そちらの方が全体として最適になると判断されたのでしょう。

 ライトユーザのうちは無課金で十分楽しむことができるゲームです。そこから先の扉を開けるかどうかはユーザに委ねられています。

終わりに

 現在の結果だけを見れば、アズールレーンゲームデザインは成功しているといえます。口コミで広がった高評価によりユーザ数は伸び続け、一部のプレイヤーは嬉々として課金をしています。ですが、このモデルが数年間にわたって売り上げを高い水準で保ち続けるかどうかは誰にもわかりません。日本版はサービスを開始して間もないですから。ゲーム会社の人間として、そしてひとりのユーザとしても、今後がとても楽しみです。

 

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