理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

【原作の良さ全開】映画評:ペンギン・ハイウェイ

 原作がすごく好きだったので気になっていた映画でした。予告編を見たときに、すごく映像がキレイで期待できそうだと感じたので見に行くことにしました。カナダ・モントリオールの第22回ファンタジア国際映画祭にて、最優秀アニメーション賞にあたる今敏賞(長編部門)を獲得したことも、映画館へ足を運ぼうと決意した一因になりました。

 期待を裏切らない素敵な映画に仕上がっていて、見に行って良かったなと思います。原作の良い所を存分に活かした内容に終始ニヤニヤしっぱなしでした。映像は美しく、ストーリーも原作に忠実にまとまっていました。

 もともと謎がすっきり片付くお話ではないため、「君の名は」のような大ヒットにはならなさそうだなと思っているのですが、見に行って後悔はない映画だと思います。

 

 

 

 

 

以降ネタバレします。

 

 

 

 

 

この映画の好きなところ

1.アオヤマ君とお姉さんの人物造形

 原作者の森見登美彦さんといえば、「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話体系」など京都を舞台に、ちょっと変な登場人物と、独特の言葉遣いを用いて不思議な世界を描く作家さんというイメージをもともと持っていました。ペンギンハイウェイの原作を読んだとき、それらと全然違う舞台とテーマでありながら、登場人物と言葉遣いはやはり独特で、一瞬で引き込まれたのを覚えています。

 特にこの作品では、主人公のアオヤマ君がちょっと変わった男の子であるということがキモで、彼を雑に扱うとイヤミな天狗少年が主人公というイライラする映画になってしまいます。逆に、彼のキャラクターを丸くしすぎると、この作品の根幹が揺らぎます。この絶妙なバランスを、よくぞ見極めてくれたなと思いました。真面目すぎる性格と、あくまで小学4年生なのだという子供っぽさを、見事に両立させた人物像になっています。

 お姉さんの人物造形もすばらしく、普通の人だけど不思議なところがあるという、こちらもバランス感覚が求められるところを見事に描いています。ミステリアス全開というキャラではなく、あっけらかんとしていて表情も豊かで、子供っぽいところもあるけどアオヤマ君に対しては保護者のようなお姉さんっぷりを発揮します。蒼井優さんの演技と声がドはまりしていて惚れます。

2.キャラ同士の関係性

 アオヤマ君とお姉さんの関係は一言で言い表すことができません。

 アオヤマ君はお姉さんのことが好きで、自覚もあるのですが、あくまで小4の恋心なので、大人の恋愛感情とは少し違う未熟さがあります。お姉さんもアオヤマ君のことが好きなのですが、それも恋愛感情とは言えないもの。彼を子供として気遣い、見守る視線を優しく投げかけながらも、大人として尊重していることが伝わるような接し方を心掛けている。甘酸っぱくもあり、温かくもあるこの二人の世界を、見事に描いてくれました。

 アオヤマ君の両親の描き方も素晴らしかったです。研究熱心で、ときに無茶をするアオヤマ君を縛ることはしないし、過度に干渉もしない。アオヤマ君が困っていても、助けを求められるまでは手を差し伸べない。そのくせしっかり彼のことを見ている。息子が「ペンギンハイウェイ」という研究テーマをつけたときに、「いい名前だね」とメッセージを残せる父に僕もなりたいものです。

 ハマモトさんを絡めた三角関係もほほえましいです。ハマモトさんは賢くてけなげでとてもかわいい。お姉さんも、彼女の恋心に気づいていながら、彼女をライバルとして認めているのか、ライバルとしてアオヤマ君の隣は譲ろうとはしません。ほほえましいというのがぴったりな関係でした。

3.実験精神

 アオヤマ君の研究を、くだらない子供の遊びという描き方を一切しないのも好印象でした。理系の大学院を出た人間としてとても嬉しかったです。科学の発展は、アオヤマ君が持っているような純粋な好奇心から生まれてくるはずなのです。

 研究の進捗をノートにきちんとまとめているのも素晴らしい。自分がつけた記録を見返すことで、新しい発見の種が生まれてくる。メモを並べて何度も眺めることで、ある日急にエウレカが起きるというお父さんのアドバイスは、どんなことにも通ずるアイディアの生み方だと思います。

4.絵がキレイでかわいい

 予告の段階でもアピールされていましたが、素晴らしい映像美が堪能できる作品に仕上がっています。夏らしい爽やかな光の表現が印象的です。ただ綺麗なだけではなく、動きのあるシーンの疾走感もお見事でした。

 登場する生き物や小物がいろいろと可愛いのも良かったです。ペンギンのよちよち感が最高でした。

考察のようなもの

 原作を読んだとき、謎が謎のままで終わることに特に違和感はなく、すっきりとした読後感でした。このひと夏の経験を通して、アオヤマ君が成長していく様がとても心に染みたのを覚えています。

 いざ映像化されてみると、考察したくなってしまうのが人間の性なのかなと思いました。以下は僕の想像です。映画以外に根拠はありません。

 アオヤマ君とお父さんが喫茶店で会話していた内容に繋がっているとすると、『海』はこの世の果て(のような異世界)に繋がる穴ということになります。何かのきっかけで穴が空いてしまったようですが、何がきっかけで、なぜこの場所だったのかということはわかりません。

 お姉さんは、『海』を消す使命を帯びている存在です。『海』からエネルギーを得て活動しているため、『海』にトラブルが起きたときの自浄システムのようなものなのかなと思いました。『海』の中の世界に見覚えがあるのは、彼女はそこで形成されたから。『海』がこの世に現れたときに、もともと生きていた人間に憑依したのか、新たな存在として生まれてきたのかはわかりません。

 お姉さんはペンギンを生み出すことで『海』を消します。お姉さんがペンギン好きということで、良い働きをするものが好意的な存在として具現化したのかなと思いました。逆にお姉さんが怖い思いをしていると、彼女が恐れているものが具現化します。停電が起きたときに、頭に思い浮かべていた怖いものの代表であるコウモリが具現化してしまったように。

 そして、お姉さんが一番恐れているのが、『海』が消えて、自分の存在も消え、アオヤマ君と離れ離れになってしまうことです。自浄システムである彼女が本来抱いてはいけない感情なのですが、アオヤマ君と触れ合ううちに芽生えてしまったこの世への未練。『海』が消えるのを防ぐために、一番恐れているジャバウォックが具現化し、ペンギンを食べることで『海』が消えるのを防いでしまいます。お姉さんはそのことを理解しているので、アオヤマ君にジャバウォックの正体を聞かれたとき、少し困ったような照れたような顔をしてごまかしたのかなと思いました。

 繰り返しますがあくまで僕の想像です。公式読本や設定資料集に、公式の見解があるのかもしれないですね。

 

 

 原作と同じように、お姉さんは消えてしまうものの、アオヤマ君は気丈に振るまい、これからも努力し続けることを宣言して物語に幕が下ります。その爽やかなこと。悲しさも寂しさもぐっと飲み込み、アオヤマ君はひとつ大人に近づいて、この夏が終わるのですね。

 

 

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  原作がすごいオススメです。

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

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ペンギン・ハイウェイ 公式読本

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