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理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

ポケモンのゲームが世界で大ヒットした理由 - Pokémon GOブームの裏側

 スマートフォン向けアプリ「Pokémon GO」がオーストラリア・ニュージーランド・アメリカでリリースされ、反響を呼んでいるようです。ダウンロード数だけでなく、セールス(課金の売り上げ)ランキングにおいても並み居る強豪を押しのけ1位にランクインしたということで、単なる話題性だけに留まらない人気になっているのではと期待しています。

 現実世界を歩き回るというこのゲームの特性上、見知らぬ人同士で交友が生まれているようです。今までのゲームの常識を覆す楽しみ方ですね。

 バーチャルな世界とリンクしてビジネスにつなげようという動きも見られます。

Pokémon GOのヒットの裏にあるもの

 このアプリがヒットの要因を考えてみると、ポケモンの高い知名度が貢献していることは疑いようがありません。ではいったい、ポケモンが世界中でなぜ人気になったのでしょうか。

 この問題を考え出すと様々な要素が複雑に絡んでくるので分析は容易ではありません。ポケモンがどのような形で輸入されたのかは国によってさまざまで、ゲーム・アニメ・カードゲームなど、色々な媒体を介してポケモンは世界に展開されていったからです。

 ここでは少し問題を絞って、ポケモンのゲームがなぜ世界中でヒットしたのかを考えてみたいと思います。

 私は幼稚園のころにアニメでポケモンを知り、ポケモン赤緑に熱中した世代です。ポケモン赤緑は日本だけでなく世界中で大ヒットとなり、一躍ポケモンの名を世界に知らしめました。

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 私はアニメからこの世界に足を踏み入れたものの、ポケモンの原点はゲームにあります。ゲームのヒット要因を考えることは、ポケモン全体のヒット要因を考えることと大きな相違はないでしょう。

ポケモンのゲームが世界中でヒットした理由

 ポケモンのゲームがヒットした要因と話題を絞ったものの、依然として切り口はいくつもあると思います。最近、1つの筋に絞った考え方を思いつきました。それを下の図を使いながら説明していきたいと思います。

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スタート時:何も持っていない自分

 「ポケモンのゲームの主人公は誰?」この問いに答えられるでしょうか。ポケモンのゲームの主人公には名前がなく、一言もしゃべらず、性格も不明、家族がどういう人なのかもわからない作品もあります。開始時にはポケモンを一切連れておらず、道具の1つも持っていません。何も持っていない存在。まさに「まっさら」な存在として、私たちの前にその姿を現すことになります。

 私は幼いころ、ポケモンのゲームの主人公は自分自身だと思い込んでプレイしていました。十字キーを押して画面上をてくてく歩くこのドット人形は自分そのものなのだと思ってプレイしていました。

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 ゲームを開始した時点では、私はこの世界について何も知りません。そんな自分のかばんに最初からモンスターボールが入っていたり、ピカチュウを連れていたりしたらちょっと奇妙だと思いませんか。完全にまっさらな状態から始まるから、私はこの主人公に自分を投影できていたのだと思います。

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 ポケモンの世界は現実世界に似たテイストで作られています。剣と魔法の異世界ファンタジーにすることも可能だったはずですが、そうなってはいません。世界観設定が自分自身を投影することを妨げないようになっています。

 主人公が自分自身だからこそ、携帯ゲーム機を持ち寄って友達と通信をすることにも、単にゲームをする以上の価値が生まれます。通信ケーブルを介して対戦・交換を行うのはゲーム上の主人公ではなく、「オレとオマエ」なのです。対戦で負ければ本気で悔しいですし、交換でもらったポケモンは大切にしたくなります。ゲーム上のデータのやりとりではなく、生身の人間同士のやりとりだからです。

 主人公が自分自身のゲームというのは、当たり前のように見えて実はあまり多くありません。ドラクエファイナルファンタジーといった同じジャンルの巨人たちは、各タイトルごとにキャラの立った主人公を操作します。マリオやゼルダもいわずもがなです。

 自分自身が広大なポケモンの世界を旅できるような主人公の設定になっている。主人公の造形1つとっても、意外と画期的だったといえるでしょう。

序盤:パーティの形成

 ポケモンのゲームは絶対に、3匹のポケモンの中から1匹を選んでパートナーにするところから始まります。この時点でいきなり、プレイヤーの道は3つに分岐します。さらに、旅を進めるうちに多種多様なポケモンが飛び出てきて、自分の思い思いのポケモンを育てていくことになります。

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 自分のお気に入りのポケモンだけを使っていいし、どう見ても強くないポケモンを使ってもいいのです。幼いころの私にとって、自分だけのパーティを作っていくその過程は、本当にわくわくしました。今考えてみると、パーティ作成は自分の個性の発揮の場として機能していたのではないかと思うのです。

 「オレのパーティすごいだろ」「この組み合わせを選ぶオレのセンスを見れくれ」。こういう感覚は、自分がこの世界で唯一無二の自分であることを保証してくれるものでした。つまり、自分の中でアイデンティティが形成されていく過程だと捉えることができます。

 また、ポケモンという生き物の設定にも特徴があります。ポケモンの世界には同じ種類のポケモンがたくさんいます。元気なピカチュウもいればおとなしいピカチュウもいていいように、それぞれ1匹1匹が個性を持っていることになっています。「オレのピカチュウ」と「オマエのピカチュウ」は全く別個のものとして存在し得るのです。

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 自分だけのパーティを組み、なおかつ、それぞれのポケモンはオレだけのポケモン。他人とは違う、「オレとコイツら」だけの物語がゲーム上では展開されます。それもまた、自分だけの個性として自分の中に蓄積されていきます。

  一方で、他のキャラクターはどうでしょう。ミッキーマウス、トトロ、ジバニャン…。どれもこれも唯一無二の1匹です。無限に存在し得るピカチュウというキャラクターはなかなか特殊な立ち位置を持っています。

 自分のアイデンティティを確立したいという想いは無意識の欲求です。この要素を満たすゲームはたくさんあると思いますが、ポケモンにおいてはパーティ作成がこれを担っていました。

中盤:活躍

 このゲームは各地のジムを回ってジムバッヂを集めることが1つの目標になっています。ジムバッヂを全部集めろという指示が最初に出て、その大目標に向けた自分の進捗具合がわかりやすく確認できるフォーマットとなっています。レポートを書くときに毎回バッヂ何個と出るのが嫌でも目に入るので、自分の現状は常に頭に刻みつけられます。

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 また、悪の組織との対峙も必ず行われます。彼らは非常にわかりやすく「悪」であり、ゲームの進行上彼らを成敗することになっても、私たちに疑問は浮かびません。悪事を働いてはいけないというのは幼いころから言われ続けた絶対の価値観だからです。

 以上の2点により、このゲームでは主人公である自分が活躍し、成長している様子がダイレクトにフィードバックされるようになっています。アイデンティティ形成の次は成長です。バッヂをこれだけ集めた、悪の組織を壊滅させた。これらは疑いようのない客観的事実として自分の成長を裏付けるのです。

 たとえゲーム内であったとしても、人から褒められるのは嬉しいことです。「ロケット団を追っ払ってくれてありがとう」。幼い私の心にはそんな言葉でさえ響くものです。とはいっても、この要素はどんなゲームにも大抵備えられていますけどね。

終盤:挫折と困難を乗り越える

 四天王は誰の目にも明らかな難関です。ゲーム内のキャラクターも再三にわたってそれを教えてくれますし、実際に挑戦してみると、これは今までとは違うなと感じるわけです。特にゲーム性を完全に理解していない子供ならなおさらです。

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 私自身、赤緑や金銀をプレイしているころは、四天王を倒すのに必死になっていました。初めて目の前がまっくらになり、チャンピオンロードで泣く泣くレベルあげをしたことを覚えています。だからこそ、勝てたときの嬉しさはひとしおでした。

 ポケモンのゲームに、必勝の攻略法はありません。なぜなら、ここまで到達する間に、人それぞれのパーティが組みあがっているからです。

 フーディンがいるからシバとキクコは楽勝だけどワタルに勝てない等と、自分が抱えている問題点は他人のそれと一致するわけではありません。カメックスに冷凍ビームの技マシンを使うことがこの場合の最適解かもしれませんが、ヒトカゲを選んだ友達にとってこの解はそもそも選択肢にありません。

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 目の前の課題に対して、自分なりの答えを用意して、試行錯誤の末に解決する。これほど達成感が得られることがあるでしょうか。ポケモンのゲームは表層的なゲームの楽しさではなく、深いところで達成感を与える仕組みになっているのです。

クリア後:終わらない自己実現の旅

 ポケモンのゲームに明確な終わりはありません。ラスボスを倒しても、自然な形でゲームが続いていきます。他のゲームに目を移してみると、ラスボスを倒した後にエンディングが流れ、結局倒す前の地点に戻ってしまうものや、それ以上の追加ステージがないため実質的にゲームが終わってしまうものが多かったのではないかと思います。最近はそうでもなくなりましたが。

 ポケモンには言わずもがな、ポケモン図鑑を完成させるというなかなか難しい大目標が用意されています。それに加えていろいろとやりたいことが出てきます。手持ちのポケモンをすべてレベル100にしたくなります。友達とバトルすると、バトルに勝ちたいという欲求も生まれます。縛りプレイをする人もいました。

 そして、ポケモンの持つちょっと不思議な世界観は、裏ワザの検証に僕らを向かわせます。たとえば金銀のウバメの森のほこら。幻のポケモンセレビィの存在が映画を媒体にして知らされると、どうやってセレビィに出会えるのかと僕らは躍起になりました。「きんのはっぱ」と「ぎんのはっぱ」を集めると登場するなどといった噂がどこからともなく流れてきては、私たちを熱狂させ、そして失望させました。

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 四天王を倒した後に何をするのかは、私たちの自由でした。私たちは自分なりに課題を見つけ、それに対する解決策を探しました。与えられた課題をただこなすだけではないこの過程は、もっともクリエイティブな活動だと言ってしまってもよいと思います。

 私たちは小学生にして、ここまで述べてきたステップを自然に駆け上がり、この高みにたどりつきます。今まで固めたきた土台を元に、自己実現の旅を続けるのです。

まとめ

 お気づきの通り、筋の通った説明にするためにマズローの欲求階層説になぞらえて論を展開してみました。ちょっと強引だと思われたかもしれませんが、このフォーマットは説明がしやすいのです。

 先進国で暮らしている限り、1段目:生理の欲求、2段目:安全の欲求、3段目:社会的欲求は、ゲーム以外のところでたっぷりと満たされています。その前提のもとでポケモンのゲームは自分自身の投影である主人公が、4段目:承認の欲求、5段目:自己実現の欲求を追い求める旅そのものであると主張させていただきました。

 世界中の人々にゲームがヒットした理由を考えるにあたって、人類に普遍的な切り口が必要だろうと考えたのです。文化や習慣は思った以上に深く僕らの趣向性に根ざしています。それらを超越したヒットの理由を仮説を立てるに当たっては、人類に普遍の欲求が一番理にかなっているのではないかと考え、この説をまとめてみた次第です。

 もちろんこれがポケモンのゲームがヒットした要因のすべてではないと思っていますが、ちょっとでも面白い分析だと思ってもらえれば幸いです。

 さて、Pokémon GOはここで説明した要素をどれぐらい持っているでしょうか。スマホ用に最適化されているはずなので、一部は省略されているかもしれませんね。ですが、位置情報やARといった今までにない技術が、ポケモンを次のステージへと引き上げるゲームになっていたらいいなと期待しながら待つことにします。

 

画像は「ひこちゃんず!」さんのものを使わせていただきました。

http://hikochans.com/

 

以前書いたポケモンについての文章たち

 Pokémon GOを開発しているNiantic社の社長のお話を直で聞く機会があって、そのお話がとても面白かったことを書きました。

 

 ポケモンの世界でモンスターボールがどのように売られているかを分析したネタ話です。 


 ポケモンで冒険を繰り広げてきた私たちに、怖いものはありませんね。

 

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