理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

国語の授業は終わらない - 「奈々子に」を久々に読んで

 小学生のときに国語の授業で読んだ文学作品は、妙に生々しく記憶に残っています。それらを久しぶりにじっくり読んでみると、全く新しい解釈が自分の中から生まれてきます。

理解不能だった詩

 吉野弘さんの「奈々子に」という詩についてのコラムが新聞に載っていました。小学校の国語の教科書に使われていた詩です。何年生で扱ったのかは覚えていないのですが、「奈々子に」というタイトルを見ただけで内容が鮮やかに蘇ってきました。

中日春秋:中日春秋(朝刊コラム):中日新聞(CHUNICHI Web)

 吉野さんの代表作となったこの「奈々子に」。吉野さんの長女である奈々子さんは、有名になるにつれてこの詩が独り歩きをしてくように感じ、敬遠するようになったそうです。その後、彼女が母になり、娘の寝顔を見ている時にこの詩を読み返して、涙が止まらなくなったとか。

 小学生でこの詩を習った時、みなさんは意味がわかりましたか?僕はたぶんさっぱり分からなかったと思います。

唐突だが
奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。

 なんで多くを期待しないのだろう。オレ、頑張るからもっと期待してよ。そんな風に思っていたような気がします。23歳になってようやく、何を言っているのかわかるようになりました。

お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。

 お父さん(吉野弘さん)が奈々子さんにあげたいものは2つありましたね。小学生の僕はこの2つの大事さも全然分からなかったです。幸いにして健康体だった僕は、健康を大きく損なうことがどれだけつらいことかイメージできませんでしたし、「自分を愛する心」なんてもう理解不能だった気がします。はぁ?自分を愛するってどういうこと?わけわかんね。みたいな。

理解度の深まり

 当時、勉強をサボっていたわけではないと思うのです。たぶん授業では「文中の酸っぱい苦労とはどんな苦労だと思いますか?」みたいな話があったんじゃないかなと思います。この詩の内容はけっこう覚えているので、何回も読んで小学生なりの頭で考えたんだと思います。ただ、先生の問いかけになんとか答えようと頭をひねっても、わからないことだらけだったでしょうね。

 しかし久しぶりに読んでみて、理解できる部分が多くなっていることにちょっとした感動を覚えました。国語教育ってこういうところまで考えられているのでしょうか。小学生のころに全力で考えさせた含蓄のある名文は、大人になってから読まないとわからない部分が多いです。その理解度の差分に大きな意味があるのではないかと考えました。自分がいろんな経験をしてきたから詩が読めるようになったわけです。理解度の深まりは、自分が大人になった証。「奈々子に」という短い詩を読んだだけで、大げさに言うと自分の人生の深まりが実感できる・・・かもしれない。

 そして「奈々子に」を理解していく過程はまだ終わりではないことも分かっています。

お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない。

 なんで苦労はお前にあげられないのでしょうか。お父さん、お母さんは一体どんな経験をしてきたから、このように言うのでしょうか。分かりません。たぶん僕が父にならないとわからないんじゃないかなぁと考えています。

 だれかが書いた文章は、自分の立場によって読み方が変わります。他人の意見の受け止め方は、自分の置かれている状況によって変わります。至極当たり前ですが、きちんと心に留めておきたいことです。重層的な読みに耐えうる、名作と呼ばれる文学作品を通して、大事なことを僕らは学んでいた(学んでいる)のかもしれません。

今現在の感想

 今日書きたかったこととは逸れるのでおまけ的につけておきます。23歳の僕の感想・解釈。これが40歳とかになったら変わるんだろうなぁ。

 今読んでみて気になるのは「自分を愛する心」ってどうやって身につけるんだろうってことです。自分を愛すること=自己肯定感が生きていく上で大事なのはなんとなくわかるのですが、「かちとるにむずかしく はぐくむにむずかしい 自分を愛する心」って書いてありますからね。コイツを手に入れるのは相当難しいことなのではないのでしょうか。

 そこでポイントなのは、作者がこの心を娘にあげたいと言っていることかなと思います。単純に、「自分を愛する心」って親からもらうのが一番手っ取り早いのではないかって仮説が立てられます。じゃあ親は子へと、どうやったら「自分を愛する心」を伝えることができるのか。親からもらえなかったら、子どもはどうすればいいのか。僕が親になる前にぜひとも自分なりの答えを見つけたいところです。

 小学生のころ、僕は母にあまり頑張りを認めてもらえませんでした。テストで100点をとってもそれが当たり前だという素振り。でも僕がちょっとでも忘れ物をしたり、ものをなくすとびっくりするぐらいの剣幕で叱られました。結果、自分を愛することが苦手な、ネガティブな人間が出来上がりました。この件については前にも書いたのでよかったらこちらへどうぞ。

 これが今の関心事なので、詩の読みにも反映されてるのでしょうね。みなさんはどうですか。

 

 

吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)

吉野弘詩集 奈々子に (豊かなことば 現代日本の詩 6)