理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

ハイカライブ@闘会議2018現地レポ - イカアイドルが壊す電子の壁

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http://www.4gamer.net/games/368/G036835/20180210054/より

 

 ニコニコ闘会議2018で行われたスプラトゥーンの音楽イベント「ハイカライブ」に現地参戦してきました。最高に熱いステージで大盛り上がりすると同時に、任天堂の仕掛ける戦略のすごさに圧倒された1日となりました。

 二次元のキャラクターがパフォーマンスする音楽イベントって果たして盛り上がるのだろうかと現地へ行く前は懐疑的だったのですが、価値観をズドンとひっくり返されました。新しい音楽イベントの片鱗を見た気分です。現実と仮想の境界はどんどん曖昧になっていくのだなと感じました。

ざっと流れを簡単に(セットリストも)

 最初はスプラトゥーン2のお馴染のゲーム画面からスタート。テンタクルズの二人、ヒメとイイダがいつも通りのテンションでアナウンスをしてくれます。「今日のステージはここ!(幕張メッセが写される)。」「大きなハコだなー!」みたいな。この時点で面白い。

 そしてステージに貼られた透明スクリーンに二人が出てきます。もう、登場しただけですごい。この二人、ぬるっぬるに動く!滅茶苦茶可愛いし、カッコいい。そして近いぞ!

 ヒメとイイダは4曲。

1. ウルトラ・カラーパルス

 フェス時のハイカラスクエア広場のBGM。始まりにふさわしい。「ヘイッ!ヘイッ!ヘイヘイ!」で1発目から大盛り上がり。ここから3曲はフェス時のナワバリバトルのBGM。

2. リップル・リフレイン

 ヒメちゃんの王冠ぴょんぴょんダンスとソロラップが超クール。

3. レッド・ホット・エゴイスト

 イイダさんの肩掛けキーボードがロック!

4. フルスロットル・テンタクル

 2人が煽るもんだからフルスロットルで腕をぶん回し。楽しかった!

 お次はシオカラーズの2人、アオリとホタルの登場。スプラ2のヒーローモード(1人プレイモード)が全部伏線となって、ここで回収されるわけです。客席からあがる「おかえり~!」の声に感動。

5. あさってcolor

 スプラ2のヒーローモードのエンディング曲。しっとりバラードでちょっとクールダウン。演出がずるい。涙する人多数。

6. 濃口シオカラ節

 1でも2でもヒーローモードのラスボス戦のBGM。二人の代表曲。体がぴょんぴょん飛び跳ねる!

 そして最後は4人そろって

7. イマ・ヌラネバー!

 「ラーラーララーラーラー」の大コーラスで締めとなりました。

彼女たちはゲームのメインコンテンツではない

 スプラトゥーンをプレイしていない人は驚かれるかもしれませんが、今回パフォーマンスを披露した4人はゲームの主人公ではありません。メインのシューティングバトルにも登場しない、いわばゲームの説明役。身も蓋もない言い方をすればサイドコンテンツの1つでしかない彼女たちが、ゲームの枠を飛び出し、あんなに大勢の観客を熱狂させていたのです。もうびっくり。

 スプラトゥーン1を開発している段階では、こうやって音楽イベントを行うことはイメージできていなかったかもしれません。一方スプラトゥーン2で登場したヒメとイイダは明確にこのステージを意識して作られたキャラだと思いました。イイダがDJだという設定しかり、ふたりとも激しい動きに映える格好をしていることしかり。ヒメの王冠がぴょんぴょんするのがとっても可愛かったです。

 ここまでの壮大なビジョンを持ってゲームを開発できるというのが本当にすごいところだなと思いました。メインコンテンツではない彼女たちの存在で、ゲームの中も外も盛り上げることができている。こんなことができているゲームが他にいくつあるでしょうか。

彼女たちはイカ語しか話さない

 ヒメとイイダ、アオリとホタルのパフォーマンスで大盛り上がりのステージになりました。しかし、この4人は日本語をしゃべりません。英語でもない、イカ語。エフェクトがかかっているので電子音のように聞こえる謎の言語。公式のイカ語の歌詞はありますが何を言っているのか誰にもわかりません。

 ステージが始まった直後、それはデメリットになるのではないかという考えが僕の頭をよぎりました。どんなメッセージを発しているのかわからないのに、本当に盛り上がることができるのだろうか、と。せめて字幕を載せたほうがいいのではないか、と。でもそれは杞憂でした。

 ヒメとイイダの1曲目。2人の繰り出すラップとダンスに僕の目は釘づけ。周りの熱狂につられて腕を振り上げていました。英語のラップを聞くように、意味がとれなくてもカッコいいものはカッコいい。字幕なんてついていたら気がそがれていたことでしょう。

 イカ語を貫くことでスプラトゥーンが1の時代から築き上げてきた世界観はきちんと守られました。あの世界に日本語はない。任天堂はしっかり守るべきところを守るブランドマネジメントが本当に得意なんだなと思います。

 そして、海外の人も同じようにあのステージを楽しむことができていました。英語のコメントもよく入っていたように思います。イカ語は世界共通語。変に日本語を使ってしまうとのけ者にされている感じがすると思うんです。

 ゲーム開発に携わっている僕からすると、ゲームを開発する上でもあの方式は都合が良いんだよなと感心しきりでした。音声は全言語共通にできて、ゲーム内テキストだけローカライズするという方法。フルボイスよりもよっぽど楽です。最近はスマホゲームですら有名声優のフルボイスをつける時代ですが、世界の任天堂はそういう流行りに乗らず、彼らならではの答えを見せつけてくれました。

 セットリストの最後の楽曲では、コーラスパートがありました。曲に入る前に一緒に歌ってねとアオリから説明してもらいました。いままでイカ語で歌っているのを聞いていただけだったのが、ここでようやく僕らも歌うことができる。しかも、アオリとホタルだけでなくヒメとイイダも一緒に。本当に胸が熱い展開でした。やっと一緒に歌える。電子の壁を超えて、ステージと観客が一体となった瞬間でした。

ゲーム音楽であるということ

 なぜイカ語で歌われる楽曲で盛り上がることができるのかということをもう少し考えると、あの楽曲たちがゲームのBGMとして使われている曲だからという見方もできると思います。特に2, 3, 4, 7曲目ですね。

 スプラトゥーンのバトルは1回3分。その短いスパンでステージのBGMを繰り返し繰り返し聞くことになります。バトル中は相手を撃ったりステージを塗ったりすることに夢中なのですが、音楽は無意識の領域に刷り込まれているのだなと思いました。演奏される楽曲はどれも聞き覚えがあって盛り上がりのタイミングもわかるし、自然と体が動くのです。楽曲自体のカッコよさを再発見する場にもなりました。

 もちろん、全くそのままのBGMを流していたわけではありません。演奏はバンドの生演奏だったので、バンドサウンドに映えるようにアレンジがしてありました。観客の僕らも大盛り上がりのアゲアゲなアレンジで、合いの手が入れやすいような工夫もされていて最高でした。

 最後の7番目の楽曲はスプラトゥーン1と2の両方に採用されている楽曲。片方しかプレイしていない人もみんなわかるし、みんなコーラスに参加できる。ゲーム音楽ってすばらしいなと思いました。

ゲームならではの奥行とバランス感覚

 このライブ自体ゲームを下敷きにしたものですし、シオカラーズの2人が”戻ってくる”というのはスプラ2のヒーローモードから地続きになった展開です。選ばれた楽曲もゲームでの展開に繋がっていますし、2人がすれ違いになってしまうことを表現した演出もその一環。

 でも、その演出は押しつけがましくないのです。知らない人、気付かない人はさらっと流せる程度の軽やかさ。ゲームの中から飛び出してきたということで、バックグラウンドは豊かです。コアファンが喜ぶものを作ることは意外と簡単です。でも、ドロドロに濃いものを作りあげるのが正解では決してない。そのバランス感覚をきちんと理解されて作られたステージだなと思いました。

 ゲーム音楽のフェスなのです。ゲームを少しプレイしたことがあって、BGMを知っていれば盛り上がることができる。それでよいではありませんか。その配慮も素晴らしかったなと思います。

枯れた技術の細部に神は宿る

 使われている技術自体は新しいものではありませんでした。初音ミクがパイオニアとなって切り拓いてきた道です。踏み固められた道を堂々と歩いていくいつもの任天堂のやり方だなと思いました。

 新しくないとはいえ、あのクオリティを担保するのは簡単ではないでしょう。音楽と映像が0.1秒でもずれたら観客はだいぶ違和感を覚えるはずです。しかも演奏は生のバンドによるもの。映像は調節できません。完璧に合わせるしかない世界。すばらしいコンビネーションでした。

 キャラクターたちの動きも素晴らしかったです。ステージ上を自由自在に動き回り、手を振り回し、複雑なステップを踏む。イイダは途中で肩掛けのキーボードを演奏していましたが、おそらく指の動きまで妥協せずに作り込まれていたのではないかと思います。

 ダンスの振り付けもとっても良かった。アオリとホタルはヒメとイイダよりも腕が長い分、腕を繊細に動かす振付が意識的につけられているように見えました。逆にヒメは小さい体をめいっぱい動かすパワフルなダンス。キャラにも合っていて素晴らしかったです。

 帰ってから動画を見返してみると、さらなる発見があって2倍楽しめました。二人がステージ上でちらっと目くばせしたり、最初アオリがやたらオドオドしていたり、細かい演出がたくさん。会場にいると前の人のペンライト等で細かい部分まで見えなかったのです。神は細部に宿っていたのですね。

二次元の歌姫の未来

 再三言及していますが最後の楽曲でコーラスを要求したり、途中で「盛り上がってる~?」と呼びかけをしてきたり、アーティストさながらジャンプや手拍子を要求してきたりと、観客とのコミュニケーションにも積極的に挑戦していたのも印象的でした。

 彼女らは映像。観客の反応は見えません。将来的にはリアルタイムでAIが判断しながらパフォーマンスを行うなんてことも実現しそうではありますが、いまはそんなことはできず、観客を置いてけぼりにして冷めてしまうリスクさえある行為です。でも、チャレンジを怠りませんでした。

 ステージと観客との掛け合いはライブの醍醐味。ファンである僕らもステージを作り上げている一員だという意識で、積極的に参加していく必要があるのかなと思いました。それはアーティストのライブのときのなんら変わりません。みんなでライブを作っている。たとえそれが二次元キャラであってもです。

 今回は前列にいらっしゃった方が振付に合わせてサイリウムの振り方を変える流れがすぐにみんなに広まって、非常に一体感のある客席になりました。初めてライブで演奏された曲ばかりなのに、この順応性はすごいなと思いながら。今後ハイカライブがあったときにもきっと団結して最高のライブを作り上げることができるなと確信しています。

 そんなことを考えると、現実と仮想の境界はどんどん曖昧になっていくのだなと思います。安室奈美恵さんのライブと、テンタクルズのライブ。はたから見みると天と地ほど差があったとしても、観客の体験に一体どれだけの差があるでしょう。「2次元のアイドルにブヒブヒ言っている気持ち悪いオタク」という像はこれからも少しずつ崩れていき、いずれ市民権を得ていくのではないかと思いました。天下の任天堂が踏み込んでくれば流れが変わります。僕らの心の中にある電子の壁はいずれ壊れる。未来が顔をのぞかせているステージでした。

 

 

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【2/14追記】

公式動画がYoutubeにUPされましたね!


スプラトゥーン2 ハイカライブ 闘会議2018

 

 

その他、ゲームについて。

 

 

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