モンスターボールを例にしてBtoCの商売戦略を学んでいきましょう。
製品性能と価格決定
モンスターボールとは野生のポケモンを捕獲し、持ち運びできる大きさで管理を可能とする道具です。機能によって様々な種類のボールが製品化されています。
最も一般的なボールであるモンスターボール(200円)とハイパーボール(1200円)を比べたとき、ポケモンを管理するという観点において差はありません。ゴージャスボール(1000円)は「ポケモンにとって内部が非常に快適なゆえトレーナーになつきやすい」という特徴を持った製品ですから、逆に言えば内部の快適さが同等であるモンスターボールとハイパーボールの差は捕獲性能だけであることがわかります。
両者の捕獲性能差は2倍であることがわかっています。しかし価格は6倍と強気の設定です。いったいどのような販売戦略がとられているのでしょうか。
注目すべきは、ボールが販売される地域です。野生のポケモンのレベルが低い地域ではハイパーボールは売られていません。モンスターボールで十分満足のいく捕獲確率が保証されるからです。一方で野生ポケモンが強い地域ではハイパーボールが販売されています。モンスターボールでは捕獲率が悪いと感じる消費者がハイパーボールを買ってくれる可能性が高いからです。地域によっては扱う商品を絞り、在庫管理や配送のコストをカットしています。
また、製品のターゲット層にも注目します。ハイパーボールを必要とする消費者はレベルの高い野生ポケモンの捕獲に挑戦する可能性が高いと言えます。一般的に、ポケモンと長く連れ添った熟練のトレーナーほど強いポケモンを求め、そのようなトレーナーは経済力もあると考えられるのでこの戦略は妥当です。単純に倍率だけで価格が決定しないのは、ボール使用の試行回数を増やす間に戦闘状況が変化する可能性があり、少しでも高い捕獲性能を持つボールを投げたいと思うのがトレーナー心理であると製造元が予測したからでしょう。
ボールの製造方法は企業秘密となっていますが、十中八九ハイパーボールの方が利益率が高いのだと考えられます。一度ハイパーボールを使ってしまったら、元のモンスターボールを使う生活にはなかなか戻れません。他のトレーナーとバトルするときに相手がどんなボールを使っているかは丸わかりですから、見栄を張りたいという気持ちもハイパーボールの使用を加速させます。
計算すればモンスターボールの方がコストパフォーマンスが高いのは明白です。でも、ハイパーボールをまとめ買いする裕福な情報弱者は後を絶たないのでしょう。まんまと販売戦略に引っかかっているのです。
価格カルテルと巨大資本
なぜこのような消費者を騙すような商法が糾弾されずに放置されているかといえば、市場を独占しているからということに尽きます。赤緑のシルフカンパニーやルビサファのデボンコーポレーションには、自社の商売エリアにおいて競合が存在しません。彼らは互いの縄張りを守る「販路カルテル」と、製品の値段を一定の値段に合わせる「価格カルテル」を併用していると言えます。
一方でおいしいみずが200円で売られている世界で、モンスターボールを200円で販売して利益が取れるのか、という疑問が浮かびます。モンスターボールの価格は人々の暮らしに大きく影響を与えるでしょう。ハイパーボールはさておき、モンスターボールの価格については電気料金のように法律で取り決めがあるのかもしれません。
さて、硬直しきったボール業界に風穴を開ける勢力になるのではないかと期待されたのが金銀で登場したボール職人ガンテツです。モンスターボールやハイパーボールにはない尖った性能と個性的なデザインを持ったガンテツ製のボールはブームを巻き起こしました。
しかしボール業界側もやられっぱなしではありません。特殊な用途のボールに需要があると知るやいなや、巨額の資金を投入して製品開発に乗り出します。こうして作られたクイックボール(1000円)やダークボール(1000円)は非常に高性能であることがトレーナー達に認められ、ハイパーボールに変わる収益の柱になりました。
一方のガンテツ製のボールには汎用性がありませんでした。月の石で進化するポケモンだけが捕まえやすくなるムーンボールなどその最たる例です。ブームが去るとガンテツのボールを欲しがるトレーナーはごく限られたマニアだけになってしまいました。
消費者行動の謎
一方で、消費者の行動を読み切るのは至難の業です。製造元が想定している使用用途を越えた使い方が流行ることがあります。
一部のトレーナー達の間で、「オシャレボール」という考え方が共有されるようになりました。ポケモンがボールから飛び出てくるときのエフェクトはそれぞれのボールで異なります。ボールの性能は度外視して、「それぞれのポケモンにふさわしいエフェクトを発するボールで捕まえてあげる」というのがオシャレボールの考え方です。
例えば、波乗り・釣りで出会った野生ポケモンが捕まえやすくなるダイブボール。泡が飛び出る独特のエフェクトから、水ポケモン全般に似合っていると人気です。使用用途を考慮して海辺のショップで展開するために作られたこのボールでしたが、消費者の熱い要望により(?)全国展開されています。
トレーナー達の予想外の消費行動も、ボール業界には追い風となっています。対戦時のボールエフェクトをカスタマイズできる商品なんてあったら売れるのではないかと思いますが、なかなか導入されません。技術的に厳しい、大量生産に向かない、採算が取れる見込みがないなど、何かしらの理由があるのでしょう。しかしいずれは商品化されると僕は考えています。今後の展開も目が離せません。それでは、今日はここまでです。みんなもポケモンゲットじゃぞ~。
ボールの画像はこちらからお借りしました。
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