理系院卒のネットワークなブログ

意外なところに「つながり」ってありますよね

研究発表への添削・アドバイスは聞き比べると良い

 もうすぐ研究室の学部4年生の卒研発表会があります。先日、先生が彼らの発表をチェックする場が設けられ、そこに僕も立ち会っていました。2年前の僕と同様、研究室に入りたての4年生の発表は拙く、先生から大量のダメ出しをもらっていました。

 けっこう辛いんですよね、ダメ出しを受けるというのは。先生チェックの場でのダメ出しとの付き合い方を間違えると、研究室生活が辛いものになってしまうだろうなと思います。もちろん、先生方は僕らの発表がより良いものになるようにチェックをしてくださっているのは重々承知ですが、学生側も上手く付き合っていくように心掛けないと下らないことでストレスを貯めてしまうことになります。

 2つ書きたいことが見つかったので、前編後編として分けることにしました。後編はこちらです。よかったら目を通してみてください。

研究原稿やスライドを添削でぶち壊されたときに考えるべきこと - 大学院生のネットワークなブログ

分かっているけど辛いものは辛い

 先生は学生のスライドをよりよくしようと、様々な視点からアドバイスをしてくださいます。今まで数十年に渡って研究発表を幾度と無くこなしてきた経験がありますから、先生の指摘は真摯に受け止めなければなりません。

 僕自身がアドバイスする側になって感じるようになったことですが、練習の場ではアドバイスをしないとその時間は無駄です。何かを伝えなければ、練習に付き合ったとしても後輩が得られるものはほぼゼロなのです。練習の時間が有意義なものになるように、後輩のスライドの隅々まで見渡して指摘できるポイントを探します。

 時に容赦なく厳しい指摘になったり、細か過ぎるツッコミになったりしてしまうのですが、それは練習なのだからむしろプラスとして捉えてほしいなと思います。なにもアドバイスが無いほうがよっぽど虚しいではありませんか。

 ですが、あれもダメこれもダメと言われ続けるのは辛いです。ダメ出しを受ける側の気持ちもわかるので言いますが、自分なりに工夫をこらして作ったスライドを修正されるのはどんな場合であっても辛いです。優しい口調だったとしても、「こんな説明じゃ全然わからないよ」と言われたらとても悲しいです。先生がこちらのためを思って指摘してくれているのだと分かっていても、言われたその場ではグサッときます。

 加えて学部4年生は、自分の制作物を添削されるということにあまり慣れていません。僕も当時はけっこう辛かったです。こんなに滅茶苦茶言われるのかと凹みました。

発言のブレとコアなポリシー

 さてここで、「慣れるしかないよ」と後輩に声をかけるのはあまり慰めになりません。僕から1つ助言として、「先生が他の学生にどういうアドバイスをするかを意識して聞いてみるといいのではないか」ということを書こうと思います。

 先生の指摘の中には、「そこまで大事だとは思っていないけどとりあえず目についたから指摘する」というケースもけっこう含まれていると僕は思っています。たとえば、単語の微妙なニュアンスの違いとか、図形の配置の仕方とか。もちろん見栄えをよくするために指摘してくれていることではありますが、先生の気分や好き嫌いにも影響されることだろうと思うのです。

 先生自身がそこまで重要ではないと思っている些細な事柄についてのアドバイスは、対象が変わるとけっこうブレるものです。とりあえず目についたものを指摘しているので、自分の発表と別の学生の発表のときで、指摘した内容同士が矛盾していることがあります。こういう「発言のブレ」を見つけたら、自分に言われたことはそこまで大事なことではなかったのだという理解で大体の場合は問題ありません。「言ってることが全然違うじゃないか!」と怒るのはあんまり意味がないことです。

 一方で、アイツにもコイツにも自分にも同じ指摘をしている場合は要注意です。それは先生が持っているコアな考え方であり、真摯に受け止めて慎重に配慮すべきポイントなのです。

 例えばうちの先生が卒研発表会のスライドで重視するのはイントロの部分です。卒研発表の場合は他の研究室の先生と学生が聴衆になります。異なるバックグラウンドを持っているため、イントロが上手く伝わらなかったら「この研究そもそも意味あるのか?」と疑問を持たれてしまいます。イントロの部分を詳しく説明し、「自分の研究が持つ意義」をきちんと語らねばなりません。

 何が先生のコアなのかを発見するためには、複数の学生に対するアドバイスを聞き比べるのが一番です。自分以外の人の発表内容に興味がなくても、どんなアドバイスを受けているかをチェックしてみましょう。

 特に卒研発表会は研究室に入って最初の発表になる人が多いので、僕の研究室では大体みんなイントロの不備を指摘されます。研究室生活を快適に暮らしていくためには、先生のコアなポリシーを把握することはすごく大事なことです。

 どうしても先生の指摘が受け入れらない時、それが些細な問題だったら無視してしまってもいいかもしれません。コアではない指摘は先生自身もあまり覚えていないこともあるのです。逆に、コアな部分の指摘を無視し続けると、温厚な先生であってもいつかは怒られてしまうかもしれません。そういう見極めが大事だと僕は思います。

 

 

 研究スライドを作るときは研究室に置いてあったこの本を参考にしました。かなり具体的なことが書いてあるのでおすすめです。

学生・研究者のための 使える!PowerPointスライドデザイン 伝わるプレゼン1つの原理と3つの技術

学生・研究者のための 使える!PowerPointスライドデザイン 伝わるプレゼン1つの原理と3つの技術

 

 

 

その他、研究室について書いたことを紹介します。 

修士論文発表会について。

 

色んな研究室があるよ、って話。 

 

理系大学院生の休日について。

 

 

 

 

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理系大学院生と出会い、恋愛に発展させる方法

 こんな記事を読みました。そして、感じました。時代の流れが理系院生に向かってきているのかもしれない、と。

 この記事では、理系院生のモテない現実を紹介したあと、付き合ってみるととてもオトクだよということが書かれています。オススメする理由は3つ挙げられており、①何かに打ち込む性質⇒浮気の心配がない②大学院まで進学⇒実家がそこそこ裕福③恋愛経験に乏しい⇒ちょろい、となっています。

 僕は非常に嬉しいです。個人差もありますが、周りの院生の友人を見渡す限り、この3つは的外れではないと思います。理系の大学院という場は、青く輝くブルーオーシャンであります。

 しかし、この記事には肝心のことが書かれていません。それはズバリ「理系院生とどうやって出会うか」です。これがなければ、良さが伝わったとしても意味がありません。出会ってしまえば院生はちょろいので、いかにして好みの彼に出会うか、というのが一番の関門だと思います。

前提

 また、女子SPA!の記事を書いた東京姉妹さんのツイートを中心に、togetterにもまとめられています。

 多くの方は分かっていらっしゃると思いますが、このまとめの中では「理系院生」と「研究者」をごちゃごちゃにしている人が見受けられます(まとめた人が悪いのかもしれませんが)。大学院生は研究をしますが、「学生」であって「研究者」ではありません。僕はここでは大学院生に絞ってお話をさせていただきます。

 大学院は前期過程(通常2年間)と後期課程(通常3年間)に分かれており、 前期過程を終えると修士号、博士課程を終えると博士号(Ph.D)を得ることができます。学部にも寄りますが理系の大学院生のうち約9割は修士号をとって就職します。そしてそのほとんどがメーカーやインフラの会社にエンジニアとして就職するのであって、研究者にはなりません。国の研究施設や企業の研究所に勤めるのは博士号を取った人がほとんどです。

本当にちょろい理系大学院生

 まず、オススメな理由を少し補強したいと思います。特に③の「ちょろい」を強く主張しておきたいです。

 一部を除き、本当に恋愛経験が少ない人が多いです。男は虚勢を張る生き物なので質問してみるとそこそこ経験があるように答えると思いますが、それは実を伴っていません。見せかけ、はったり、数字の上だけです。

 そして理系院生のメンタルヘルスも重要なファクターです。研究は個人戦です。今まで横並びの教育を受けてきた僕らですが、同期の中でも成果がたくさん出る人とそうでない人にはかなり差ができてしまいます。なかなか普段吐き出せない弱音を抱えている人も多いです。支えを欲しているのです。

 難しい恋愛の駆け引きなど必要ありません。女子にアタックされた経験が少ないので、正攻法で簡単に攻略できると思います。理系は論理立てて考える生き物ですから、女子がわざと逆の行動をとったりすると混乱してしまうかもしれません。

理系院生の出会いが少ない理由

 理系院生と出会うのが難しい理由は大きく分けて3つあります。

1つ目:忙しい

 文系の大学生のような自由はありません。分野によっては朝から晩まで拘束されるところもありますし、ひどいところは土日も縛られたりします。日々の研究にプラスして、研究室内のミーティング、論文執筆、学会発表の準備、授業などなど色々なタスクを同時に抱えながら生きているのが理系の大学院生です。

 研究室内で過ごす時間が長く、外部の女の子と出会うのが難しくなります。また、忙しさゆえバイトやサークルはやめてしまったという人が多いです。王道の恋愛発展パターンが望めません。

2つ目:趣味・生活がインドア派

 いわゆるオタクのイメージを押し付けられるのは悲しいですが、インドアな趣味を持っている人が多いのは事実です。そして一人でも自分の時間を楽しめる人が多いです。支えを欲している人が多いと書きましたが、一人で生きていく強さを持っている人が多いのもまた事実。これは彼女がいない時間が長いため孤独に慣れてしまったと捉えることもできますが、とにかく自分を貫いて閉じこりがちな人が多いです。

3つ目:恋愛に奥手

 恋愛に突入できる距離にあったとしても、奥手な院生はその距離を詰められません。せっかくの機会が恋愛に発展せずに流れてしまうケースは多いでしょう。これでは出会っていないのと同じです。

 

 理系院生と出会うことが難しい理由を3つ挙げましたが、クズ男が言い訳しているようにしか見えないですね。まずは院生の方が努力しろよと。それは仰るとおりでございます。

 でも、なんとかわかってほしいのです。なかなか恋愛に踏み込めないこの現状を。そして、女子の皆様には院生を候補に加えて欲しいと思います。そのために、僕が考える出会いの方法を次に考えていきます。

理系院生と出会う方法

 意外性のない回答になってしまいますが、「合コン」と「友達の紹介」の2つが王道なのではないかと思います。

 まず、どちらの方法にしても強制的な出会いの場になるというのがポイントです。忙しくてもインドアでも奥手でも、土俵に引っ張りあげられては院生も勝負するしかありません。

 合コンは手軽かつ複数人と接触できる方法です。しかし、男子チームが理系院生だけの場合、女子チームは苦労する可能性があります。理系人間は、「男子も女子も巻き込んでみんなワイワイ盛り上がる」ということがけっこうな確率で苦手です。合コン慣れしている女性ほど、物足りなく感じてしまうと思います。女子チームが引っ張っていくという気合いがあれば、案外盛り上がるのかもしれません。

 そういう意味で友達の紹介というのが一番無難なのではないでしょうか。理系院生の中には、僕の目の届く範囲にも「とんでもないヤツ」がいます。しかし紹介の場合は仲介役を挟んでいるので、そういうヤツをフィルタすることができます。仲介役にとってもメンツがかかっているので適当なことはできません。

 ただこちらも、会話の盛り上げ上手な男性ばかりだと思っていると、女性は不満がたまってしまうかもしれません。ハードルは低くしておくが吉です。

 

 いざ合コンするにしても紹介してもらうにしても、ツテがなければ実現しません。大学院生とゼロからコネクションを作るのは大変なので、学部時代に作っておけるのが理想です。大学にもよると思いますが、僕の大学は工学部の95%、農学部の80%は大学院へ進学します。学部生のうちはそこそこ暇なのでバイトやサークル活動に参加している人も多いです。意識して繋がりを作っておくと良いのではないかと思います。学部生のうちに捕まえてしまうのが実は一番賢いのかもしれませんね。

 というわけで、東京姉妹さんが作ってくれたこの流れ、無駄にしたくないと思い色々書いてきました。女子のみなさんは騙されたと思って理系院生を狙ってみてください。ブルーオーシャンに飛び込んでください。合言葉は「理系院生の知り合いでいい人いない?」です。何卒、よろしくお願い致します。

 

 

理系院生の生態についていろいろ書いています。 

僕らは休日もけっこう研究室に行きます。

 

僕は幸運なことにサークルに参加しております。

 

出逢う力

出逢う力

 

 

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【歌唱力体感】西野カナのバラード曲おすすめランキング

 いきなりですが、僕は西野カナさんの音楽が好きです。しかしこれを友人に打ち明けると変な目で見られます。「男子大学院生が西野カナを聴いてなにが悪い!」と憤りを感じます。ですが友人たちの態度の理由が分からないわけではないので、彼らになんとか良さを分かってもらいたいという気持ちでこれを書いています。

 僕が彼女の楽曲を聴くのは声が好きだからです。歌詞やルックスにさして興味があるわけではありません。少し鼻にかかったようなハスキーさと、力強く伸びる高音が聴いていてとても心地よいのです。それだけです。それで十分すぎる理由になります。

 元気でカッコイイ曲もたくさんありますが、とりあえずここではバラードを推します。彼女の楽曲の魅力が端的に伝わるのではないかと思います。寝る直前に部屋を真っ暗にして、ヘッドホンやイヤホンを使って聴いてみてください。一応youtubeの音源を貼っておきますが、実際の音源で聴くことを何よりオススメします。apple musicなどを使って聴いてみてください。

 

6位 君って

2010年11月


西野カナ『君って』

 

 ゆったりしたメロディと平凡に入るサビ。そこから一転して一気に伸び上がる「おもいだしてごらんよ」の高音。そのメリハリがなんとも面白い一曲。なかなか歌うのが難しそうです。

 西野文学の1つ「友達大好き!」ソング です。

 

5位 You are the one

2010年6月

You are the one

You are the one

  • 西野 カナ
  • J-Pop
  • ¥250

 

 冒頭の「いまごろどーしてるのー」で早くも心を打たれます。ほんとにいい声です。「Now and forever」から盛り上がるサビはバラードなのになんだか少しカッコイイ。「うまれかわってーーもーー」の「てー」がすごく良い。声がぐいーんと伸びてきて、遠くから鳴り響いてくるように感じます。

 「とりあえず英語を混ぜておけばウケるJ-pop」をわざと皮肉っているかのような英語のオンパレードがクールです。

  

4位 always

2012年11月


Kana Nishino - Always 西野カナ

 

 わかりやすく歌唱力を感じられる曲です。繰り返される「なーーいもの 」のノビが非常に心地よいです。通はここだけでごはん3杯はいけるとかなんとか。その後もサビが続くのですが、最後まで力強く歌えるのはさすがの一言です。

 歌詞は従来の等身大女の子路線から少し踏み出そうとする様子が見て取れますが、ちょっとぼんやりしています。

 

3位 Wishing

2011年6月


AMV Wishing - Kana nishino

 

 「声の響きを体感できる度」は他の楽曲に劣りますが、個人的にすごく好きなのでランクインさせました。サビに入る瞬間のアレンジが好きです。あの細かく刻むようなエフェクト。彼女のバラードの中では珍しく歌声が裏に隠れがち。それがなんだか新鮮です。

 カラオケで誰かと一緒に歌ってみたい一曲。「しんじてー」を阿吽の呼吸でパート分けして、「ねーがーうーよー」でバッチリ合わせてみたい。

 フラれた相手を引きずって、前に踏み出せない弱い時の等身大西野文学。

 

2位 たとえどんなに

2011年11月

 SONYウォークマンのCMに使われました。30秒だけですがオーケストラバージョンもあります。


西野カナ CM SONY ソニーウォークマン 「よみがえる思い出」篇 曲 たとえどんなに

 

 耳に残る印象的なピアノ伴奏とのマッチングする歌声が美しいです。メロディ部分はびっくりするぐらいおとなしいのですが、逆にサビの強さが映えます。サビの頭からどかんと殴りに来ますが、後へ行くほど伸び続ける長めのサビがたまりません。「きみーをおもーいつづけてー」から畳み掛けるような2ループ目が好きです。

 女子中学生にジャストミートしそうな歌詞。

 

1位 さよなら

2013年10月


西野加奈「再見」完整中文字幕版

 

 初っ端、物悲しさがにじみ出る歌い方になんだかはっとしませんか。こんな歌い方できたんだ、と。メロディはかなりゆったり。サビの「あえーるよー」のノビは健在。バイオリンの響きとマッチする重厚な響きが素敵です。「ふたりがー」の飛び上がる高音がアクセント。

 歌詞の世界観は夢追い人の彼氏にフラれるという少し凝った設定。ニッチな範囲で深い共感を呼びそうです。「思い通りにはいかないかもしれないけど」「好きという気持ちだけじゃダメなんて信じたくないけど」という表現から、ちょっとだけ諦めることを覚えたんだなと成長を感じます。

 

 

 

YUIさんについても以前書きました。よかったらこちらもどうぞ。

モンハンの戦闘BGMなんかもランキング作りました。

 

 

 

さよなら(通常盤)

さよなら(通常盤)

 

 

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修論発表会で理系院生は二度死ぬ

 先日、修士論文の発表会がありました。

地獄一幕目 異種格闘技戦

 修論の発表会では他の研究室の先生が大学院生の発表を審査します。僕の専攻では発表15分、質疑応答10分の時間がそれぞれの学生に割り当てられます。学部4年で研究室に入ってから今まで国際学会で4回、国内学会で5回の口頭発表を経験してきましたが、こうした学内の発表には学会とは違った怖さがあります。

 審査員として参加される他の研究室の先生は、当然様々な分野を研究しています。学会発表と大きく違う点は、聴衆がバッググラウンドを共有していないので基礎から説明をする必要があるということ、及び個々の説明についても専門用語をなるべく排した説明が求められることです。苦労することではありますが、こちらも何度も研究発表を繰り返してきていますから、そこまで難しいことではありません。

 修論発表会は、15分の自分の発表のターンは難なく終わるのです。恐ろしいのはその後の質疑応答の時間です。

「それでは、本発表に関してご質疑、ご討論ある方は挙手をお願いします」

 座長という名のレフェリーが、「ファイト」の掛け声をかけるかのように高らかと試合開始を宣言します。僕ら院生は、たったひとりで居並ぶ強敵たちを相手にしなければなりません。審査員の先生方は、各分野で華々しい成果を上げて大学教授のポストまで登り詰めた怪物たちです。ボクサーや柔道家、相撲取りまでが参戦するこのリングはまさに異種格闘技戦。彼らの猛烈なラッシュを耐え続けなければなりません。

「この分野に詳しくないので的外れかもしれませんが」

 ひとりのファイターが攻撃を開始します。的外れな易しい質問がくるぞと期待をする挑戦者は、油断していると一気に距離を詰められ必殺の質問でグロッキーになります。彼らは畑違いの研究にも関わらず、挑戦者の研究の本質を瞬時に見極め、ここが急所だと言わんばかりの的確な攻撃を繰り出してきます。想定されうる質問に対しては綿密に準備をしておかなければなりません。ヘッドを守るためにきちんとガードを上げておく必要があるのです。

「ちょっとよくわかっていないので教えて欲しいのですが」

 こういう前置きは大抵牽制です。すべては理解していなくとも、突かれて痛いところを見分ける眼力を先生方は持っています。油断大敵です。

「前提がそもそもおかしいと思うのですが」

 先生同士の仲が悪かったり、そもそも業界の相性が良くなくて意地悪な質問をしてくる先生さえいます。大学教授はいい意味でも悪い意味でも変な人がたまにいるのです。火を付けてはいけない人が暴れ出したらもう大変です。正直言ってどうしようもないのですが、その危険人物が食いつくポイントが分かっているなら外すことが大事です。特定の言葉に反応するなら使わないように発表する、などです。

 質疑応答の10分はとても長く感じます。度重なる痛撃に気絶寸前の挑戦者。鳴り響く発表時間終了のベルは、試合終了のゴングかはたまたノックアウトのゴングか。しかし座長が終わりを告げれば、発表者は開放されるのです。ズタボロになった挑戦者は、自分の研究室に引き上げていきます。

地獄二幕目 傷口に塩

 審査員にボコボコにされたとしても、発表が終わってしまえばこれ以上の追撃はありません。安堵を引き連れて帰還した挑戦者。さあ今日は早く帰ろうと帰り支度を始めた瞬間、まさかの地獄の二幕目が開きます。

 修論発表会には当然自分の研究室の先生も出席しています。僕らのふがいないリングでの戦いを見た先生たちは、研究室に帰ってくるとダメ出しに入ります。

「あの答えは厳密に言うと間違っているよね」

 審査員の攻撃をいなすために必死だった僕らは、専門家の目からみたら明らかに間違った回答をしてしまうことだってあります。焦ると冷静な判断力を失ってしまうじゃないですか。「ST○P細胞はあるのか」と審査員に聞かれたので「ST○P細胞はありまあす」と答えたら研究室に帰ってきて「あるわけないだろ」と怒られるような感じです。もう発表会は終わったのだからいいじゃないかと心のなかで叫ぶ僕らを、研究室の先生はいたぶります。おそらく良かれと思ってアドバイスをくださったのだとは思いますが。

「あんなふうに答えたら誤解されてしまうよ」

 先生たちの指摘は続きます。先ほどの戦いで負った傷跡にたっぷりの塩を塗りこむかのように。わかってるんですよ、僕らだって。あんまり上手く答えられなくて、審査員の先生が納得してなかったことぐらい。ぐすん。

 こうして、2回も業火に焼かれて無機物になった院生は、質疑応答の難しさをその身に刻みつけ、研究を終えるための引き継ぎ作業に励むことになります。アーメン。

 

 

その他、理系の大学院生について書いたこと。

いろんな研究室がありますよね、という話。 

 

休日も研究室に通う院生の生態。

 

研究室の先生と就活時の距離の取り方。 

 

 

 

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モンスターボールに学ぶ価格戦略・カルテル・消費者行動

 モンスターボールを例にしてBtoCの商売戦略を学んでいきましょう。

製品性能と価格決定

 モンスターボールとは野生のポケモンを捕獲し、持ち運びできる大きさで管理を可能とする道具です。機能によって様々な種類のボールが製品化されています。

 最も一般的なボールであるモンスターボール(200円)とハイパーボール(1200円)を比べたとき、ポケモンを管理するという観点において差はありません。ゴージャスボール(1000円)は「ポケモンにとって内部が非常に快適なゆえトレーナーになつきやすい」という特徴を持った製品ですから、逆に言えば内部の快適さが同等であるモンスターボールとハイパーボールの差は捕獲性能だけであることがわかります。

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 両者の捕獲性能差は2倍であることがわかっています。しかし価格は6倍と強気の設定です。いったいどのような販売戦略がとられているのでしょうか。

 注目すべきは、ボールが販売される地域です。野生のポケモンのレベルが低い地域ではハイパーボールは売られていません。モンスターボールで十分満足のいく捕獲確率が保証されるからです。一方で野生ポケモンが強い地域ではハイパーボールが販売されています。モンスターボールでは捕獲率が悪いと感じる消費者がハイパーボールを買ってくれる可能性が高いからです。地域によっては扱う商品を絞り、在庫管理や配送のコストをカットしています。

 また、製品のターゲット層にも注目します。ハイパーボールを必要とする消費者はレベルの高い野生ポケモンの捕獲に挑戦する可能性が高いと言えます。一般的に、ポケモンと長く連れ添った熟練のトレーナーほど強いポケモンを求め、そのようなトレーナーは経済力もあると考えられるのでこの戦略は妥当です。単純に倍率だけで価格が決定しないのは、ボール使用の試行回数を増やす間に戦闘状況が変化する可能性があり、少しでも高い捕獲性能を持つボールを投げたいと思うのがトレーナー心理であると製造元が予測したからでしょう。

 ボールの製造方法は企業秘密となっていますが、十中八九ハイパーボールの方が利益率が高いのだと考えられます。一度ハイパーボールを使ってしまったら、元のモンスターボールを使う生活にはなかなか戻れません。他のトレーナーとバトルするときに相手がどんなボールを使っているかは丸わかりですから、見栄を張りたいという気持ちもハイパーボールの使用を加速させます。

 計算すればモンスターボールの方がコストパフォーマンスが高いのは明白です。でも、ハイパーボールをまとめ買いする裕福な情報弱者は後を絶たないのでしょう。まんまと販売戦略に引っかかっているのです。 

価格カルテルと巨大資本

 なぜこのような消費者を騙すような商法が糾弾されずに放置されているかといえば、市場を独占しているからということに尽きます。赤緑のシルフカンパニールビサファのデボンコーポレーションには、自社の商売エリアにおいて競合が存在しません。彼らは互いの縄張りを守る「販路カルテル」と、製品の値段を一定の値段に合わせる「価格カルテル」を併用していると言えます。

 一方でおいしいみずが200円で売られている世界で、モンスターボールを200円で販売して利益が取れるのか、という疑問が浮かびます。モンスターボールの価格は人々の暮らしに大きく影響を与えるでしょう。ハイパーボールはさておき、モンスターボールの価格については電気料金のように法律で取り決めがあるのかもしれません。

 さて、硬直しきったボール業界に風穴を開ける勢力になるのではないかと期待されたのが金銀で登場したボール職人ガンテツです。モンスターボールやハイパーボールにはない尖った性能と個性的なデザインを持ったガンテツ製のボールはブームを巻き起こしました。

 しかしボール業界側もやられっぱなしではありません。特殊な用途のボールに需要があると知るやいなや、巨額の資金を投入して製品開発に乗り出します。こうして作られたクイックボール(1000円)やダークボール(1000円)は非常に高性能であることがトレーナー達に認められ、ハイパーボールに変わる収益の柱になりました。

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 一方のガンテツ製のボールには汎用性がありませんでした。月の石で進化するポケモンだけが捕まえやすくなるムーンボールなどその最たる例です。ブームが去るとガンテツのボールを欲しがるトレーナーはごく限られたマニアだけになってしまいました。

消費者行動の謎

 一方で、消費者の行動を読み切るのは至難の業です。製造元が想定している使用用途を越えた使い方が流行ることがあります。

 一部のトレーナー達の間で、「オシャレボール」という考え方が共有されるようになりました。ポケモンがボールから飛び出てくるときのエフェクトはそれぞれのボールで異なります。ボールの性能は度外視して、「それぞれのポケモンにふさわしいエフェクトを発するボールで捕まえてあげる」というのがオシャレボールの考え方です。

 例えば、波乗り・釣りで出会った野生ポケモンが捕まえやすくなるダイブボール。泡が飛び出る独特のエフェクトから、水ポケモン全般に似合っていると人気です。使用用途を考慮して海辺のショップで展開するために作られたこのボールでしたが、消費者の熱い要望により(?)全国展開されています。

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 トレーナー達の予想外の消費行動も、ボール業界には追い風となっています。対戦時のボールエフェクトをカスタマイズできる商品なんてあったら売れるのではないかと思いますが、なかなか導入されません。技術的に厳しい、大量生産に向かない、採算が取れる見込みがないなど、何かしらの理由があるのでしょう。しかしいずれは商品化されると僕は考えています。今後の展開も目が離せません。それでは、今日はここまでです。みんなもポケモンゲットじゃぞ~。

 

 

ボールの画像はこちらからお借りしました。

ひこちゃんず!

 

 その他、ゲームについて書いたこと。

 

ポケットモンスター ブランケットインクッション モンスターボール PMAP298

ポケットモンスター ブランケットインクッション モンスターボール PMAP298

 

 

 

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研究室配属希望者にはビジョンを見せろ

 研究室に学部生を勧誘するにあたってモヤモヤした気持ちになったということを先日書きました。

 これに対する答えが見つかったわけではないのですが、研究室へのリクルートに関して先生が興味深いことをおっしゃっていたので考えてみます。

なぜ志望者は減少したのか

 今年、僕の所属する研究室を志望する学生が減ってしまいました。何が悪かったのだろうと首をかしげる僕らに、先生が語り掛けます。

 「君たちは学部生にビジョンを見せるべきだった」

 先生曰く、学生がその研究室に入りたいと感じるかどうかのポイントは、学生たち自身がこれから行う研究活動がどのような意義を持つか、というところにあるそうです。3年前は僕らも研究室を選ぶ身だったのでわが身を振り返ったのですが、いまいちピンときません。続けて先生は言います。

 「研究室に入って自分がどんな手順で研究を行うか、どんな生活を送ることになるのか、先生との関係性はどうか、というようなことは些細なことだ」

 なんとなく先生の言いたいことが掴めてきました。そもそもの話ですが先生は成績優秀な学生をリクルートしたいと常々考えているタイプの人です。そういう向上心のある学生は、研究室生活の様子などよりもまずは研究の大きなテーマを重視するのだとか。学生に示すべきだったのは、自分たちの研究がこんなに素晴らしい未来へと繋がっているのだ、というビジョンだったというわけです。

 通信の分野で例えるなら、「C言語でシミュレーションプログラミングを組んで研究を行っています」というのは研究室を選ぶ立場の学生にとってはどうでもいい情報で、「動画配信が広く普及した現在、通信帯域の枯渇が問題視されるほどデータ量が増えている。将来に渡って高速・高信頼な通信設備を維持するためには我々の持つ技術が不可欠だ」みたいなことを言うとカッコいいわけです。自分が取り組むことになるであろうプログラミングが、社会全体を支える不可欠なインフラに直結するのだと考えると、なんだか興味が湧いてきませんか。先生が僕らに伝えたかったのはきっとこういうことだと思いました。

 もちろん、実際にどのような方法で研究を進めていくかも大事だと僕は思います。でも、それだけを学生に紹介したところで真に彼らに響くメッセージにはならないよ、ってことを先生は言いたかったのではないかと思いました。

ビジョンを示せるか

 「リーダーはビジョンを示せ」と自己啓発の本に書いてあるのをよく目にします。本を読んだだけでは単なる情報のひとつなのですが、実際の経験から身近な人に教えられるとそこに納得感が生まれる気がします。「おれと一緒にデカいことやろうぜ」と仲間を誘うときは、明確なビジョンを見せられるかがカギなわけです。

 先生の教えを実行しようとすると、「研究のビジョンを魅力的に示す」ということと「学生が行う研究がそのビジョンにきちんと貢献できることを示す」ことが難しそうだなと思いました。自信を持ってこれらをプレゼンするためには、自分の研究分野に精通し、いろいろな角度からこの分野を俯瞰できているかが問われるわけです。

 今年、見学に来た学部生の対応は後輩に任せていました。自分は来年卒業するので、来年研究室に入ってくる学生とは直接の関わりがありません。だから僕らが積極的にがんばる必要はないだろうと思って身を引いていました。しかし、研究室在籍期間が一番長い僕らこそが、学生にビジョンを示してやらなければならなかったのだなと反省しました。自分の果たすべき役割を放棄してしまっていたのかもしれません。

 

 

研究室に関するその他の話。

 

いろんなタイプの研究室があるので見極めが大事です。

 

 

理系院生に夏休みはあるのか。

 

そもそも休日はあるのか。

 

 

ビジョナリー・カンパニーはめっちゃ面白かったですね。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

 

 

 

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他人を自分の組織に勧誘するのが怖い

 学部の3年生が次年度から所属する研究室を決める時期です。

研究室見学で胸に引っかかったもの

 うちの学科には、3年生が各研究室を回って、先生や院生から説明を受けるという年中行事があります。僕ら院生側は一塊になってぞろぞろとやってくる学生に対して、自分の研究室がどんなテーマを扱っているかを説明し、研究室の居心地が良いとか先生が優しいとか、学部生にとって魅力的に聞こえるであろうポイントをアピールします。このアピールでは当然耳障りの良いことばかりを言います。ウソは言いませんが、都合の悪いことについてはあまりコメントしません。時間も限られていますし。

 興味がある研究室が見つかったら、学部生は個別に研究室を訪問してさらに情報を得ようとします。興味を持ってくれたのは僕らも嬉しいので、喜んで対応します。志望者が定員枠を超えると選抜になるのですが、志望者が少ない方が僕らは悲しいのでがんばって勧誘します。

 去年は修士の1年生としてこの行事に参加しました。枠を超える後輩がうちの研究室を志望してくれたので、僕としては満足でした。しかし、今年はちょっと胸に引っかかるものがありました。

最後は自分で決めるんだぜ

 先日、うちの研究室と別の研究室で迷っている学部生と話しました。去年は何も考えずに自分の研究室の魅力をどんどんアピールして気持ちをうちに傾けようとしていた気がするのですが、今年はなんだかその子の背中を押すような言葉が出てきません。もしかしたら彼には合わないかもしれないという考えが頭をよぎり、無責任に自分の研究室をプッシュすることが、実は彼の人生を大きく変えてしまうことになるかもしれないという不安にかられました。

 研究室生活が長くなってきて、周りの研究室との違いが歴然と見えるようになってきました。うちの研究室は先生が手厚く指導してくださるおかげで、僕は何度も国際学会に行くことができました。一方で在籍期間の中で一度も国際学会に行かない研究室もあります。当然、僕の研究室の方が成果を求められますし、忙しい時期はハゲそうになります。

 「どっちが良い研究室か」という話ではなくて、研究室によって修士の生活は大きく変わるということです。人それぞれ、好みの問題なのです。そう考えると強いことがなにも言えなくなって「最後は自分で決めるんだぜ」みたいな、ちょっと突き放した言い方になってしまいました。

新卒担当の人事さんのさじ加減

 今年、僕の気持ちが去年とちょっと違うのはきっと、就活を経験したからだと思います。研究室は内々定を出した企業。僕は人事。入社を迷っている新卒に対して、絶対にうちに来いとは軽々しく言えません。だって、彼の人生です。彼の人生を僕の手で歪めてしまったら、その重みに僕は耐えられません。

 僕が就活をしているとき、「最後は自分で決めるんだぜ」というニュアンスの言葉は少なからず言われたような気がします。しかし冷たく突き放されたという印象を抱いた覚えはなくて、人事さんのさじ加減がお上手だったのだろうと今は思います。

 それと同時に、「絶対にうちに来い」といったような強い勧誘もされませんでした。よく覚えているのは、「君がこのフロアにデスクを構えて仕事している様子が目に浮かぶんですよね」と言われたことです。当時は嬉しくなったのですが、今考えると直接誘っているわけではなく、なんだかぼんやりとした表現だなと思います。

他人の人生を背負い込めるか

 僕が出会った人事さんがどうなのは知りませんが、僕が研究室の勧誘に躊躇してしまう理由は、他人の人生を背負い込む勇気がないからだと思います。僕の手で他人の人生を左右してしまうのは非常に怖いです。僕は自分の人生で手一杯。余裕がないのです。

 もちろん、最後に決めるのは決断を下す人自身なので、勧誘する側が気に病む必要はないという考え方もあると思います。しかし少なからず影響を与えてしまう以上、真摯に向き合う必要が僕はあると思うのです。

 採用担当でなくとも、企業の一員として就活生に関わる機会が今後僕にもあるかもしれません。そうなったとき、僕はどのような対応ができるでしょうか。就活生が求めるもの、企業が僕に望むこと、そして自分の本心。それらに上手く折り合いをつけられるでしょうか。 

 結局、今年うちの研究室を志望した学部生は去年よりも減ってしまいました。うちを志望してくれた学生がきちんとうちの魅力を理解してくれていること、そして他の研究室を志望した学生が自分にぴったりの研究室を見つけられたことを、僕は祈ることしかできません。

 

色んなタイプの研究室があるよ、ってことを以前書きました。

 

僕がどんな感じで研究室を選んだかも書きました。

 

 

 

 

 

決断力 (角川oneテーマ21)

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